共に過ごすのは“魂を喰うため”…!?清廉な若武者×傾国の妖狐によるもどかしい戦国ロマンス『化け狐の忠心』

マンガ

公開日:2023/8/10

化け狐の忠心
化け狐の忠心』(清音圭/白泉社)

 日本にはさまざまな昔話が存在するが、その一つ「女化(おなばけ)伝説」をご存じだろうか? 命を救われた白狐が人間の娘に化け、命の恩人のもとを訪れ…という内容だ。この伝説のように、人間の娘に化けられる化け狐がひとりの若武者と出会うところから始まる物語が、清音圭氏の『化け狐の忠心』(白泉社)だ。著者初の単行本となる本書は、8月4日に第1巻が刊行される。

 本作の主人公となる妖狐の玉藻(たまも)はかつて人間たちへの報復として、多くの魂を喰い数多の国を傾けたため、長い間封印をされていた。とある戦がきっかけで封印が解け、偶然その場にいた東雲の国の若君・梅多直澄(うめだなおずみ)に出会う。彼の愚直な性格を目の当たりにし、「清廉で美味そうな魂じゃ」「満腹で喰うてはもったいない」と、頃合いを見て直澄の魂を喰べるために直澄の侍女として側に置かせることにした。

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化け狐の忠心

化け狐の忠心

 城で働く玉藻が見たのは、直澄の命を狙う継母や小物の父親、多くの仕事を背負い込む直澄の姿。はじめは直澄を“獲物”として見ていた玉藻だが、彼を助け、側にいるうちに、2人の距離はどんどん縮まっていく。

化け狐の忠心

化け狐の忠心

 本作の見どころは、やはり玉藻の心の移り変わりだろう。「直澄の魂を喰う」と意気込み、直澄の命を狙うものは人間であろうが妖怪であろうが手を出してきた。ただ直澄が己の身を削り、危険を冒していくため、次第に玉藻の目的が「直澄の魂を喰う」から「直澄を守る」へと変化していくのだ。

化け狐の忠心

化け狐の忠心

 筆者がそれを一番感じたのは、歌を詠むのが下手な直澄と歌の練習をするエピソードだ。「これまで恨みのみを抱えて生きていたが、直澄といると他の感情が湧く」という内容の歌を詠み、「ひとたび私の心に触れたからには この手の届かぬところへなど行かせませぬ」と、直澄を真っ直ぐに見つめる場面がある。直澄の魂を目当てに動いていた玉藻が、直澄に感情を揺さぶられる瞬間はそこまでにも数多あったが、この場面はあまりの美しさについ目も心も奪われてしまう。

化け狐の忠心

 また、筆者は絵の美しさにも強く惹かれた。直澄と玉藻は美男美女という設定だが、そんな美しい2人の表情の変化や些細な動作まで、今にも動き出しそうに感じられる。真っ直ぐな性格の直澄の表情がころころと変わるのはもちろん、玉藻の心情の変化と共に彼女の表情の柔らかさにも変化があるため、そこも注目していただきたい。

 その他にも、もちろんきゅんとするシーンが至る所にちりばめられている。戦国ロマンスというだけあり内容は重厚ながらも、決してときめきを置き去りにしない。愚直な直澄に振り回される玉藻のかわいらしさに、思わず笑みがこぼれてしまう。そんな2人の姿を今後も見守っていきたい。

文=高松霞

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