自分が大人になった瞬間を自覚して態度が急変!? 2023夏アニメ放送中の両片想い学園ラブコメ『夢見る男子は現実主義者』

マンガ

公開日:2023/8/19

夢見る男子は現実主義者
夢見る男子は現実主義者』(おけまる:原作、吉北ぽぷり:漫画、さばみぞれ:キャラクター原案/KADOKAWA)

 10代は大きく変わる年代だ。急激に背が伸びて見た目が変化するのはもちろん、考え方や気持ちも変わっていく。程度の差はあれいわゆる中二病などとも言われるイタいことをしていた時期から、徐々に落ち着いた雰囲気になっていく。

夢見る男子は現実主義者』(おけまる:原作、吉北ぽぷり:漫画、さばみぞれ:キャラクター原案/KADOKAWA)は、両片思いのすれ違いラブコメ。高校生の佐城渉は、あるときから「あんな高嶺の花と俺みたいなフツメンは釣り合わない」と思うようになり、それまでしつこいくらいにアプローチしていた同級生のヒロイン・夏川愛華と距離を置くように。本作はこの心境と行動の“変化”がキーポイントになる物語だ。

 原作は2023年8月時点で8巻まで発売中の人気ライトノベルで、TVアニメ化もされた話題作。今回は4巻まで発売されているコミック版から大枠のストーリーを紹介する。

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突然の“変化”から始まる両片思いの学園ラブコメ

 佐城渉は、夏川愛華との両想いを夢見て、めげずにアプローチを続けていた。そんなある日、愛華のあとを追うように歩いている渉の目の前を、サッカーボールが弾丸のように高速で通り過ぎた。次の瞬間、それが壁にぶつかり爆発したような音が響く。すると彼は目が醒める。

 特にケガはしていない。しかし心は……過去数年の記憶はある。我に返ったと言うべきか。まるで手をたたく音で催眠術が解けるように、ボールが壁に激しく当たった音で正気を取り戻したようなのだ。

 愛華が好きだという気持ちは変わらない。ただ、心配そうに自分を見ている彼女のもとに駆け寄りたいとは思わない。今までと違い、愛華へアプローチする自分が“イタい”と感じる。鏡にうつる自分はフツメン中のフツメン。一方彼女は圧倒的な高嶺の花で、付き合うという夢を見ていたのが恥ずかしくなるほど不釣り合いだ。完璧美少女の愛華は、言ってみれば大人気アイドル。自分は数多くいるファンの一人でしかない。それくらい格差があるのだと自覚した。

 誰もが“イタく恥ずかしい”子どもから変わっていく10代。しかし多くの人間は“いつの間にか”変わっている。自分が変わった瞬間を意識できることはない。黒歴史のような過去はある程度都合よく忘れながら、徐々に落ち着いていくのだ。

 だが、この変化の一瞬を認識してしまうというのが本作のポイントである。渉は一瞬前の自分の感情も行動も忘れておらず、過剰に恥じることになる。それゆえに極端な行動に出る。一日中つきまとい「好きだ」「付き合ってくれ」と言っていたのに、愛華といきなり距離を置くのだ。我に返ったその日から話しかけず、絡まず、よそよそしくふるまう。

 そんな数刻前とは別人のようになった渉に愛華は心をかき乱され、彼に絡んでくるようになる。これまでとは逆だ。情緒が不安定になり、焦り慌てる彼女からは無自覚な好意が見え隠れする。そんな愛華を心配して彼女の親友の女子・芦田圭が渉に「さじょっち(渉)がまとわりついていたせいで同級生も近づいてこなくて、愛華が学校で話す相手は私とあなたしかいない」と言い、さらに「さじょっちはきっと愛華にとってはもう居場所」なのだとも言う。

 渉は圭の言葉を聞いても、彼女が自分に好意をもつという現実はありえないと考えた。我に返った現実主義者の彼は「恋人になりたい相手」から「推し」に変わった愛華に、友人を作らせ、新しい友人関係という居場所を作るために、ますます遠慮するようになるのだ。

 少年の変化によって進展(?)し始めた恋は、すれ違い、かみ合わない。王道だがひねりの効いたラブコメ。読んでいるこちらはやきもきしつつもニヤニヤさせられっぱなしだ。

変わりたい、変わっていく若者たち

 渉は愛華へのアプローチがすべてだった。ただ心境の変化で愛華以外のクラスメイトや学校の先輩と絡むようになり、アルバイトも始める。そこで彼は、出会った人間が変わる手助けをする。

 2年生の先輩・稲富ゆゆは、男性に苦手意識をもっており克服したいと思っていた。彼女の先輩で3年生の風紀委員・四ノ宮凛は渉に助言を求めてくる。また、渉の姉・楓の様子がおかしいと、彼女が所属する生徒会の仲間から相談を受ける。さらにアルバイト先で知り合った同級生の一ノ瀬深那。彼女の「兄からの自立」にお節介もする。もともと愛華に対しては「好きだ」「かわいい」と言って直球勝負をしていた渉は、彼らに思った通りの本音をそのままぶつけるという問題解決力を発揮していく。

 本作はラブコメであるとともに、自分を変えたい、変わっていく若者たちの青春群像劇でもあるのだ。

 ただ渉自身は変化の道半ばだ。心境が変わったとはいえ、一番向き合うべき相手に対する観察力と、気持ちを汲み取る力はもっと高めるべきだと思うからだ。作中で彼が愛華とすれ違ってしまうたび「渉、そういうところやぞ……」と言いたくなる。なお愛華は一足先に変わっていたのだが。彼女の変化は第4巻で描かれるので、ぜひ注目してほしい。

 夢を見ていた男子高校生は現実主義者になった。しかし本当の現実を見られるようになるまで、まだもう少し時間がかかりそうである。

文=古林恭

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