殺されたい女と、殺したい幽霊の号泣必至マンガ。2024年にミュージカル化が決定している『黒博物館 ゴーストアンドレディ』書評

マンガ

公開日:2023/9/18

 2024年5月に開幕する、劇団四季の新作ミュージカル「ゴースト&レディ』。この作品、なんと原作は漫画! 藤田和日郎先生の『黒博物館 ゴーストアンドレディ』(講談社)をもとにしたミュージカルなのです。

 恥ずかしながら、筆者はこちらの作品は未読でした。しかし、ミュージカル&漫画好きとしては、ぜひとも知っておかねばということで、早速取り寄せ読んでみました。きっと私と同じように「ミュージカルも気になるけど、まずはどんな漫画なのか知りたい」という方もいるでしょう。というわけで本記事ではそんな方のために、『黒博物館 ゴーストアンドレディ』のストーリーをご紹介したいと思います。ネタバレなしなので、安心してお読みください。

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「かち合い弾」から始まる運命の物語

舞台は1900年代初頭のイギリス。とある博物館に所蔵された「かち合い弾」を求めてひとりの男がやってくる。じつはこの男、劇場に取り憑いた幽霊。“グレイ”と呼ばれるこの男は、学芸員に「このかち合い弾が、一体どうやってできたのか」、その経緯を静かに語り始める……。

 という場面から物語ははじまります。ちなみに「かち合い弾」とは撃ち合った弾丸同士が空中で衝突してできたもの。その確率は10億分の1だとか。ものすごい確率です。

 この「かち合い弾」には、じつはグレイのほかにある重要な人物が関係しています。それが“近代看護教育の母”として知られるフローレンス・ナイチンゲール。彼女がこの物語のもうひとりの主人公です。ざっくりいうと、『黒博物館 ゴーストアンドレディ』は亡霊とナイチンゲールによる、不思議×歴史×冒険譚なのです。

殺されたい女と、殺したい幽霊に待ち受ける運命とは?

 時は遡り、1852年。とある事件で命を落としたグレイは、亡霊になってから80年以上、劇場でひたすらお芝居を観続けていました。そんな彼に声をかけたのがフロー(ナイチンゲール)。彼女はグレイに言います。

「私を取り殺して幽霊」

 生きていても何もならないと絶望したフローは、グレイに自分を殺してほしいと頼むのです。100年近く芝居だけを観てきたグレイは、この頼みに大喜び。

「観ているだけだったオレが今こそ役を与えられた役者になれる」

 演目は「哀れな女を絶望の底で取り殺す幽霊」。しかしフローが望むまま殺してしまっては、盛り上がりに欠けます。そこでグレイは、フローが最も不幸になる「絶望」の瞬間を狙って殺すことに。とんでもない幽霊ですね。

 やっと死ぬことができると安堵したフロー。ところがこの約束が「じきに死ぬのだから何をしても怖くない」と、かえってフローの生きる原動力になってしまうのです。家族に反対されていた看護婦になるという夢を叶え、病院の劣悪な衛生状況を抜本的に解決。ついにはクリミア戦争下の野戦病院での活躍で多大な功績を収め、「クリミアの天使」とまで呼ばれるように。このあたりは史実の通り。じつはその陰にはグレイという幽霊の存在があったんですね。

 殺されたい女と、殺したい幽霊。歪なコンビは行動をともにするうちに良き相棒のような関係に。ところがそんな二人の前に思いがけない敵が立ちはだかり……。ここから先はネタバレになってしまうので言えませんが、藤田先生ならではのバトル展開も満載。人間と幽霊のタッグがどのようにして戦うのか、ミュージカル版の演出が気になります。

 そしてクライマックスで明らかになる、グレイが「かち合い弾」を探しに来た理由……号泣必至です。壮大な冒険の末に、二人はどんな運命をたどるのか?

 原作を読み返しながら、来年のミュージカルを楽しみに待ちたいと思います。

文=中村未来

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