美しくモテモテだった女もルッキズムの犠牲者? 外見至上主義にがんじがらめにされた正反対の女2人『ブスなんて言わないで』

マンガ

公開日:2023/9/21

ブスなんて言わないで
ブスなんて言わないで』(とあるアラ子/講談社)

 コロナ禍がある程度収束した今でも、マスクを取って外出するのに違和感を覚えてしまう。顔に何も着けていない素顔で堂々と街を歩くほど自分の顔には自信がない。上半分だけ見えるぐらいでちょうどいい。自意識過剰なのは分かっているが、一度マスク着用がデフォルトになると、これくらいが心地よいと思ってしまう。

 そんな風に周囲の目に敏感になっているのは、自分だけではなかった。とあるアラ子『ブスなんて言わないで』(講談社)を読んで、そう得心した。同書の冒頭、自分のルックスに自信がない主人公の知子は、外に出る時は眼鏡とマスクと帽子で武装。「その気持ち、分かる」というのは筆者だけではあるまい。

 本作のテーマはルッキズムだ。ルッキズムとは、容姿の美醜によって人物の価値をはかるような外見至上主義。主人公の知子は、そんなルッキズムにがんじがらめにされ、学生時代から息苦しい日々を送ってきた。いかに彼女がハードモードで生きてきたかは、第一巻を通じて痛いほど伝わってくる。

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 そんな知子と対照的な学校生活を送っていたのが、当時クラスメイトだった梨花。スクールカースト最上位だろう彼女らのグループは、知子をいじめの標的にする。だが、梨花には梨花の事情があった。学生時代、彼女はその美しさゆえに幾度となく男子から言い寄られ、それを断るといい気になっていると反感を買う。梨花は外見だけで自分を判断されることに嫌気がさし、落ち込んでいた。彼女もまた、ルッキズムの犠牲者だったのだ。

 卒業後、知子は、梨花が反ルッキズムを掲げて美容家として成功していることを知る。その転向に納得がいかない知子は、梨花への復讐を決意。だが、もののはずみで知子は梨花の会社で働くことになってしまう。

 梨花が大学を卒業して出版社に入った時、女性誌の表紙には「モテ」という言葉が躍っていた。それについて梨花は、〈男性社会が作り出した不特定多数に好かれる為の美の規範。なんて窮屈なんだろう〉とこぼす。そこで筆者が連想したのは、雑誌『オリーブ』だった。

 パン屋の紙袋をピクニックの帽子にしようなんて記事を載せ、自分のためのおしゃれを提唱した同誌は、異性からのモテを視野に入れていなかった。異性の視線を過剰に意識したメイクやおしゃれは、オリーブ的価値観とは真逆にある。旧オリーブ少女がモテ系のファッション誌に違和感を抱いた理由のひとつは、そこにあるのだろう。

 知子は学生の頃、髪の毛に小さなリボンをあしらう独自のおしゃれを貫いていたが、これこそが、まさにオリーブ的なコーディネイトである。彼女が実は元オリーブ読者だった、という裏エピソードがあっても不思議ではない、とすら思う。

 梨花の主張と歩調を合わせるように、女性誌も変わってきている。1巻から3巻を続けて読むと、時代が徐々に梨花の主張に追いついてくるのが分かる。化粧やおしゃれは自分のためのもの。誰かに媚びることなく、あくまでも自分がご機嫌になれる服を身に着けよう。ありのままの自分でいることで、社会の悪しき慣習と戦いたい。そう梨花は主張する。

 そんなある日、知子はカメラマンの小坂にデートに誘われる。小坂は誰が見てもイケメンだが、背が低いことをコンプレックスに感じており、そのせいで恋愛に積極的になれない。そんな彼が見染めたのが知子、という時点で波瀾万丈の予感しかない。知子はデートに向けて梨花からメイクの基本を教わり、当日に備える。さて、ふたりの行く末は?

文=土佐有明

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