就業間際には絶対に電話を取らないママさん社員。会社あるあるが止まらない、お仕事連作短篇集『明日も会社にいかなくちゃ』

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/13

明日も会社にいかなくちゃ
明日も会社にいかなくちゃ』(こざわたまこ/双葉社)

「うちの会社にもこういう人いる!」……と思わず言いたくなる小説。それが、こざわたまこさんの『明日も会社にいかなくちゃ』(双葉社)です。

 とある事務機器を取り扱う会社を舞台に、そこで働く社員たちの悲喜こもごもを描いたお仕事小説。全6編を収録した短編集です。

 巻頭作品の「走れ、中間管理職」では、若くして中間管理職になった女性・優紀が主人公。

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●あらすじ
前任者の退職がきっかけで突如、総務課の課長補佐に抜擢された優紀。課内の問題を解決すべく日々奔走する。あるとき優紀は、ほかの女性社員からよく思われていない新人のかおりを、なんとか輪の中に入れてあげようと努力するのだが……。(「走れ、中間管理職」)

 頼まれたら断れない性格の優紀。仲の良い同僚だった沙也は、優紀が上司になった途端、あれこれ頼み事をするようになり、それがさらに優紀を追い込んでいきます。特に沙也が気に入らないのが新人のかおり。優紀がかおりをサポートしようものなら「贔屓している」とクレームをつけられてしまいます。まさに、あちらを立てればこちらが立たず状態。

 また、作中沙也が「課内のみんなもそう思っている」というニュアンスのセリフを繰り出すのですが、すかさず心の中で「みんなって誰」とツッコミを入れる優紀にとても共感しました。本当、こういうときの「みんな」って誰なんでしょうね?

 しかし、中間管理職として沙也の言い分も無視することはできません。そこで優紀は、ミスしたかおりに対ししっかりめに注意をするのですが、その結果大変なことに……。

「優紀は一体どうすればよかったのか?」というテーマで、読後にディスカッションしたくなるお話です。

相手に厳しく、自分に甘いママさん社員

 さて、「走れ、中間管理職」では面倒くさい同僚として描かれている沙也ですが、3話目の「エールはいらない」では主人公を務めます。

●あらすじ
産休から復職した“ママさん社員”の米沢仁美。新人時代、仁美に散々お説教をくらっていた沙也は、彼女のことが好きではない。子供を保育園に迎えに行くのを理由に、終業間際には絶対に電話を取ろうとしない仁美を、周りの人間たちも良くは思っていなかった。その結果、仁美を困らせるためのある計画が実行されることに……。(「エールはいらない」)

 子育て社員の復職をテーマにしたお話です。入社当初、仁美から「電話は3コール以内に取って。これ、社会人なら常識だよ」と散々小言を言われ続けた沙也。それなのに復職後は電話を取ろうとしない仁美に疑問をいだきます。

 子育てしながら仕事をする仁美に、沙也はさまざまな形で「協力」し「助けて」いるのに、仁美からは一度も助けられていない気がする。「これって不公平なんじゃないの?」と、苛立ちを募らせる沙也でしたが……。

 子育て社員と、周りの社員が感じる温度差が秀逸な一編です。よく聞くトラブルだけど、結局どうやって解決すればいいのか。たくさんあるうちの答えの一つが、この作品に込められていると思います。

 6人の主人公たちは皆、性別も立場もバラバラ。それぞれが抱える悩みは、きっと誰しも心当たりがあるはず。あなたはどの主人公に共感するでしょうか?

文=中村未来

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