サラリーマンが竪穴住居を作り縄文生活。火をおこし、石を研磨し、土器を作るノンフィクションエッセイが面白い

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/29

週末の縄文人
週末の縄文人』(週末縄文人 縄・文/産業編集センター)

週末の縄文人』(週末縄文人 縄・文/産業編集センター)は、「現代の道具を使わず、自然にあるものだけでゼロから文明を築く」という、縄文時代さながらの暮らしぶりをYouTube配信するサラリーマンユニットによるエッセイである。

 本書を読む前、こういったあらすじを見て、私は純粋に思った。

「なんで?」と。
「なんで貴重な週末に、そんな意味も無いしんどいことしてるの???」と。

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 しかし読み終わってから、自分の考えがいかに浅はかだったか……反省した。

 世の中が豊かになったからこそ、現代人には「失われてしまった感覚」があると思う。全ての物事がスピーディーで、ネットで調べれば解決方法がいくらでもヒットする現代。便利なのはもちろん素晴らしいことだが、長い時間をかけたり、失敗したりしないと「気づけないこと」は、確かにあるのだと思う。

 本書は、その「失われてしまった大切な感覚」を思い出させてくれる、心温まり、かつ笑いありのサバイバル・エッセイなのである。

 著者の一人、文(もん)は、毎日必死に働いているものの、本当にこれは社会の役に立っているのか、稼いだお金を消費的な娯楽に費やすだけの生活でいいのか……そういった「モヤモヤ」を抱えていたとか。

 しかし週末縄文人の活動を始めてから、労働と生活が直結しているような体験をし、現代の仕事では感じにくい「生きる充実感」を得られ、そのモヤモヤは少なくなってきているようだ。

 彼らは文明の利器を一切使わず、何時間もかけて火をおこし、石斧にするための石を研磨し、植物の繊維からヒモを撚(よ)り、中腰の姿勢で腰を痛めながら、竪穴住居を建てる。

 私が一番好きだったのは、土器作りの章だ。

 縄文土器なんて簡単に作れそうと、安易に考えていたのだが、そんなことはない。粘土のこね方、乾燥させる時間、火加減……。少しでも間違えれば、焼く際に割れてしまう。著者の二人も、ネットで作り方を調べることなくやってみて失敗したからこそ、土器作りには高い技術が必要なことが分かったのではないだろうか。事実本書にも、「縄文人、すげぇ……」と感じ入る様子が書かれている。

 また、二人は土器を作るという自由な創作活動に、木を削ったり石を磨いたりする作業とは違う「創造性」を感じ、「縄文土器のエネルギッシュな造形の根源には、この自由な創作と初めて出会ったときの、縄文人の爆発的な喜びがあるのではないかと想像した。そう、本当に芸術は爆発だったのだ!」と思ったそうだ。これは実際に土器を作った人にしか分からない、発見と感動だろう。

 最後に。前述のとおり、著者の二人は普通のサラリーマンである。その二人が自ら「動画だけでは伝え切れない」「カメラに映らない僕たちの心の動き」を本書で書いているわけだが……「この人たち、文章力ハンパなくないか?」と思った。

 語彙や表現力は豊かで上品。言葉選びのユーモアもあってテンポもいい。なおかつ圧倒的に「読みやすい」。こういうのを「筆力がある」というのだろうなぁ……と、変に感動してしまった。

 動画のファンの方はもちろん、動画を知らなかったという方にもぜひ、読んでもらいたい。

文=雨野裾

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