阿部サダヲ主演「不適切にもほどがある!」の裏側。一切アドリブをしない阿部と宮藤官九郎の関係はまるで‟老練な漫才コンビ”?

文芸・カルチャー

公開日:2024/4/28

不適切にもほどがある!シナリオブック"
不適切にもほどがある!』シナリオブック(宮藤官九郎/KADOKAWA)

 俳優の阿部サダヲが、主演ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の番宣で『ナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ)に出演した際、ナイツの塙宣之から「(脚本家の)宮藤官九郎さんとは話し合いとかされたんですか?」と聞かれ、「全くしないですね」と答えていて驚いた。同じ劇団「大人計画」に所属し、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など主演俳優・脚本家としていくつもの作品でタッグを組んでいる2人だが、作品については「全然話さない」のだという。

 阿部は宮藤が書いた台本を受け取り、演じるのみ。ドラマでは昭和から令和の時代にタイムスリップしてしまった男として、画面上で暴れまくっていた阿部。『不適切にもほどがある!』シナリオブック(宮藤官九郎/KADOKAWA)を開いてみると、「あとがき」で磯山晶プロデューサーがこう書いていた。

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阿部さんのすごいところはたくさんありますが、特に「セリフを一語一句変えずに、想像の斜め上の演技をする」という点を尊敬しています。自分の言いやすいように語尾を変えたり語順を変えたりすることが一切ない。

 出会って32年の仲であるという宮藤とはこれといって話をせず、台本に書かれている通りに、いやそれ以上に演じてみせる。試しにシナリオブックと放送された映像を照らし合わせて見てみると、これは本当だった。

 例えば、阿部演じる市郎と河合優実扮する娘の純子が互いに「ジジイ!」「ブス!」などと罵り合いながら、丁々発止のやり取りを繰り広げるシーン。こういう場面では「実はあれはアドリブで…」と後で明かす俳優もいて、ファンも「へえ〜、そうだったんだ!」と感心したりもするのだが、そういう箇所は一切ない。阿部も河合も台本通りに演じていて、セリフを足したり、変えたりしていなかった。数行にわたる長ゼリフのシーンでも同様で、台本に忠実である。

 また、興奮して純子の名前を「じゅんこおおおおっ!」と叫ぶシーンでは、この文字通りに「おおおおっ!」と正確に発音していたし、笑う場面で「シシシ」と書いてあるところでは本当に「シシシ」と笑っていた。文字で読むと、「漫画みたいに“シシシ”なんて笑う人いる?」と一瞬思うのだが、阿部が演じると「シシシ」が正解だとしか思えなくなるほど魅力的に演じているのだからすごい。

 磯山プロデューサーも書いていたが、阿部と宮藤は「老練な漫才コンビみたい」なんだろう。出番前にちょいとネタ合わせしてステージに上がる、みたいな。宮藤が阿部のことを想像して脚本を書き、それを読んだ阿部が「今回はこういう感じね」とさらりと演じる、みたいな。シナリオと映像を照らし合わせて見てみると、そんな信頼関係が伝わってくるのだった。

文=堀タツヤ

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