“課金して読む地獄”の負の連鎖が止まらない―祖母に「バケモン」と呼ばれる令児の実父は誰?

マンガ

公開日:2023/9/26

少年のアビス
少年のアビス』(峰浪りょう/集英社)

 「課金して読む地獄」との呼び声が高い『少年のアビス』(峰浪りょう/集英社)の最新14巻が9月19日に発売された。14巻では遂に「主人公・令児の出生の秘密」が明かされる。長年読者が待ちわびたその答えは、嘘か真実か。男尊女卑、児童売春、心中事件とあらゆる地獄が描かれてきた本作だが、その連鎖はまだまだ終わりそうにない。

最悪で最高の時

 引きこもりの兄と認知症の祖母、そして消えてしまいそうなほど弱々しい母。不安定な家族に縛られていた黒瀬令児は、希望のみえない鬱屈とした毎日を過ごしていた。そんなある日、令児は憧れのアイドル「青江ナギ」と出会い心中に誘われる。ナギとの出会いで自分の中に広がる闇をはっきり自覚した令児は、アイドルと心中するという最高の瞬間に救いを見いだしていく。

 「すさんだ毎日を過ごしていた僕の前に、憧れのアイドルが現れた!」という突拍子もないイントロは、一見ご都合ラブストーリーの始まりのようにも受け取れる。しかし本作の読み心地はまごうことなきサイコサスペンス。閉塞感が漂う田舎町を舞台に、そこに巣食う魔性の螺旋にからめとられた人々の群像劇だ。

 心中は未遂に終わったものの、この事件を発端に令児の担任教師、幼馴染らの心の闇が暴かれていくことに。やがて物語は親世代が犯した罪と罰にまで遡っていく。

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螺旋は次なるステージへ

 読むと憂鬱になるのに、ページをめくる手が止まらない。『少年のアビス』の世界に触れた読者の多くは、そんな思いを抱くだろう。それは物語のそこかしこに、親の束縛や過去の罪といった圧倒的立ち位置からの支配が描かれているからにほかならない。

 令児を取り巻く世界には、知らなければ幸せでいられる多くの秘密が隠されていた。その表層が剥がれ落ち、ドロドロとした真実が露呈していくその瞬間に、我々は点と点が繋がるような心地よさを覚える。緊張と解放。強いカタルシスを感じる読後感こそ『少年のアビス』の魅力といえるだろう。

 最新14巻ではその緊張が一気に張りつめていく。『少年のアビス』最大の謎とも言える令児の出生について暴かれるのだ。令児を「バケモン」呼ばわりする祖母がこぼした「実父」の正体とは…。さらに、ここまで触れられなかったナギの半生にもスポットがあたる。令児の母・夕子の過去とリンクするようなナギの半生は、作中で唯一異質だった彼女の存在をあの町の螺旋に溶け込ませていく。

回帰してそして始まる物語

 ゾッとする美しさと気味悪さをたたえる令児とナギの表情はとくに印象的で、新たな魔性の始まりを予感させる。1話の冒頭にリンクするシーンも描かれるなど、14巻にして物語が1周したこと、そして令児の物語が次なる階層へとコマを進めたことを実感できるだろう。新たな螺旋は、令児をどんな未来へ誘うのか。『少年のアビス』14巻も期待して読んでいただきたい。

文=ネゴト / あまみん

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