現役麻雀プロがMリーグの実況者に。日吉辰哉が麻雀ライト層のハートを鷲掴みにできた理由とは?

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公開日:2023/9/30

ヒヨシの超実況 これが麻雀実況者の生きる道
『ヒヨシの超実況 これが麻雀実況者の生きる道』(日吉辰哉/KADOKAWA)

 2018年にインターネット放送局ABEMAではじまった麻雀のナショナルリーグMリーグ。
「男女混合のチーム戦にする」、「選手はユニフォームを着用する」、などこれまでの麻雀のイメージとはかけ離れたスタイルが好評を博し、視聴数は年々増加。これまで大人の男性のダークな遊戯というイメージの強かった麻雀に、女性や未成年ファンを急増化させている。

 そんなMリーグの中でも昨今大人気の麻雀プロ、日吉辰哉氏初のエッセイ本、『ヒヨシの超実況 これが麻雀実況者の生きる道』(日吉辰哉/KADOKAWA)が発売された。この日吉、Mリーグで人気と書いたが実は選手ではない。

 日吉のポジションは「実況者」。

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「実況」はアナウンサーが務めることがほとんど

 スポーツ中継であれば「解説」をプロや元プロがやることは珍しくないが、「実況」はアナウンサーが務めることがほとんど。麻雀でもかつてはアナウンサーが実況を務める放送が多かったのだが、日吉は自身もプロ選手でありながら「実況」で大人気となった稀有な存在だ。

 日吉の実況の特徴はその「熱さ」。
 ときに立ち上がり、ときに解説の言葉を遮り、ときに喉をからして絶叫する。
 そのような熱い実況が、麻雀のルールさえも知らない視聴者達に「選手達が行っている勝負の熱さ」を伝える役割を担っている。

なぜヒヨシ実況はファンの心を掴めたのか

 一方で、Mリーグの実況を担当しはじめた当初は、一般的な実況象とかけ離れたその実況スタイルから「うるさい」「ふざけているのか」というコメントも多かったという。
 しかし今の日吉の人気はMリーグの選手達と同等以上と言っても過言ではない。なぜヒヨシ実況はファンの心を掴めたのか。

 そこにはお調子者で情熱的な表のキャラクターからは想像もつかない緻密な計算があった。
 日吉は「実況者として重要なのはザッピングをしている視聴者の目を止めること」だと言う。
 Mリーグは麻雀を知らない層にアピールすることを念頭においたビッグプロジェクトだ。それを深く理解している日吉は始めから「麻雀を知らない人がなんとなくみたときに、興味を持ってもらえるトーク」を意識している。

 自身もプロなので、麻雀には元々深い知見がありながら、それを全面に出すのではなく徹底的にライト層や麻雀初心者層の「楽しさ」に寄り添う言葉選び。それがヒヨシの超実況として、今のMリーグの盛り上がりを作っている。

 とはいえ日吉も最初はいちプレイヤーとして「最強」を目指してプロになっている。なぜ実況者としての道を歩むことになったのか、プロプレイヤーとしてそこに葛藤はなかったのか。
 Mリーグの視聴者はもちろん、エンターテイメントを作る一人の人間のエッセイとしてさまざまな視点から楽しめる一冊となっている。

文=平澤元気