見た目が派手な怪魚を釣りまくる女の負い目。大人気釣りガール・マルコスは、実は最近までアジを釣ったことがなかった?

暮らし

更新日:2023/11/10

実録、世界を釣る女
実録、世界を釣る女』(マルコス/KADOKAWA)

 大物を釣り上げるのは、釣りの一つの醍醐味だ。その大物が規格外であれば、それだけ興奮と達成感は大きいし、輪をかけて滅多にお目にかかれない魚種ならば感動は最高潮に達するだろう。

 人気の釣りガールの中でも、ひときわ名を馳せる「マルコス」。釣り好きであれば、一度は耳にしたことがある名前だろう。マルコスとは何者なのか? なぜ怪魚ハンターとして世界を釣りまわっているのか。マルコス自身が綴った冒険譚エッセイ『実録、世界を釣る女』(マルコス/KADOKAWA)には、彼女の赤裸々な人となりや、秘められた悩みまでもがしたためられている。

 意外にも、彼女は元々は会社員だった。しかし、本人が告白するように飽きやすい性分からか物事の多くは長続きせず、会社を3か月で退職。ただ、飽き性の一方で、一度思い立ったらすぐにやり出さないと気が済まないタイプだそうで、ニート状態だったときにふと思いついたのが「野生の魚を見てみたい。できれば釣ってみたい。ほんなら釣り行こ!」だったという。幼い頃から生き物は好きだったそうで、釣りを知らない彼女はその日からYouTubeの釣り動画を観あさり、最も興味をもったバス釣りを始めたそうだ。

advertisement

 彼女はやがて、世界の怪魚へと視野を広げていく。海外での釣り旅をやめられない理由について、彼女は心中を明かしている。

 本書の中で、彼女は海外での釣りはいつも新しい発見がある楽しさを語っている。例えば、現地特有の釣り方との出会い。テキサスのアリゲーターガーはコイの切り身をエサにするし、カナダのサーモンはイクラがエサになる。ネパールに生息するゴールデンマハシールという“怪魚”は、ルアーに食らいつくと激流の中を猛スピードで走るため、魚が掛かるとなんと用意しておいたボートにすぐさま飛び乗り、魚に引っ張られるようにして追随、接近して釣り上げるのだという。

 日本ではなかなか体験できない釣り方だ。

 さて、本書はそんな彼女の意外な一面を見ることができる。それは、釣り人として“負い目”のようなものを感じていた、というものだ。

 実は彼女は、「どうせなら怪魚を釣りたい」「見た目が派手な魚じゃないと意味がない」という“気負い”があったらしい。誰も行かないようなところに行って冒険をしたいという気持ちも強かったそうだ。そんな彼女が自分の“気負い”を振り返ったのはコロナ禍に入ってから。コロナによって長期間にわたって海外に行きづらくなり、その“気負い”とともに“負い目”にも気付いた。その負い目とは、“基本的な釣り”をしたことがないというもの。サビキ釣り、堤防からの小物釣りをしたことがない彼女は、大衆魚であるアジすら釣ったことがなかったのだと明かす。

 彼女はコロナによる足止めで、姿勢を変えた。近くの海に行って、アジ釣りやタコ釣りに挑戦したところ、「怪魚じゃなくても、普通に面白いわぁ」と喜びを発見するとともに、それまで以上に釣りを好きになっていったのだそうだ。

 巻末で、彼女は釣りを通して出会った人たち、できた経験、新たに発見した自分、物事に対する価値観など、釣りがもたらしてくれた財産に感謝しつつ、読者に対して、マルコスの「釣り」のように、自分にとって「救い」となるものを探してほしい、と願いを語っている。

 派手なようで庶民的、大胆なようで弱いところをもつマルコスだからこそ、ファンは悪戦苦闘に心打たれ、感動する。彼女の動向から、ますます目が離せないとともに、本書から何かを始めるための勇気を得る人たちが増えていくことを期待したい。

文=ルートつつみ(@root223

あわせて読みたい