スーパーの裏の喫煙所でヤニ吸いながら癒される男女。会社の災難や理不尽を抱える40歳独身社畜男を応援したくなる…

マンガ

更新日:2023/11/22

スーパーの裏でヤニ吸うふたり
スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(地主/スクウェア・エニックス)

 どれだけ頑張って働いても「なんとなく報われない感」が自身の心を襲うときがある。それでも働き続けなければいけない僕らを頑張らせてくれるもの、それは癒しだ。人には、疲れた体やくたびれた心を癒すなにかが必要だと思う。たとえそれが癒しとは似て非なる物・場だとしても、自分の心が休まり、癒されればそれでいい。『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』(地主/スクウェア・エニックス)を読了すると、そう思えてくる。

 本作の主人公は、40代独身で社畜街道をひた走る、スーパー鈍感男・佐々木。彼の癒しは、仕事の帰り道にあるスーパーの店員・山田だ。山田の屈託のない笑顔を見るため(決して変な意味ではない)、彼は毎日のようにそこで買い物をして彼女のレジに並ぶ。佐々木にとって山田は、いわゆる癒し+推しのような存在なのだ。また彼には、疲れた心に平穏を与えるものがある。それは煙草だ。ただ気軽に吸える喫煙所が減っているのはリアルな世界も作中も同じ。どこか煙草を吸える場所がないか探していると、スーパーの裏から佐々木を呼ぶ声が。声の主は「田山」と名乗る女性だった。彼女も喫煙者らしく、2人は裏で一緒に煙草を吸うことに。この出会いがお互いの癒しへとつながるとは知らずに……。

 物語のメイン舞台となるのは、スーパーの裏の喫煙所だ。ここで佐々木と田山は、さまざまな会話を繰り広げる。特に、佐々木に降りかかる会社での災難や理不尽は、現役社会人ならきっと共感できるとともに、「佐々木さん負けないで……!」と応援したくなってしまう。そんな彼の話に耳を傾ける田山だが、実は彼女の正体はスーパーで働く佐々木の癒し的存在・山田なのだ。制服姿の彼女は清楚でふんわりした感じに見えるが、プライベートの彼女は少し強めできれいなお姉さんへと変貌する。見た目も口調も異なるせいか、佐々木は田山を山田の親友と勘違いしてしまう。とはいっても、髪色や目元に変化はないため少し考えれば気づきそうだが……。コミックスが3巻まで出たいまも、佐々木は気づいていない。しかし、この鈍感さも彼の魅力であり、山田改め、田山の心を癒すエッセンスになっている。話が進むごとに、佐々木の存在が田山の癒しにもなっていく様は、本作の注目ポイントだろう。

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 読み進める中で気になったのは、田山が煙草を吸い始めた理由だ。佐々木は、仕事の疲れや理不尽な出来事を、煙草で忘れたいがために吸っている様子。一方、田山は彼のように社畜街道をひた走っているようには見えないし、職場の人間関係も良好だ。特段吸い始める理由はなさそうに見える。作中では、そのきっかけとなるシーンが一部描かれるが、まだ全容は明らかになっていない。田山がスーパーで働き始めた8年前までさかのぼるのだが、佐々木は関係しているのだろうか……? これからも色々と想像しながら、2人のほど良い距離から紡がれる物語を、そっと見守っていきたい。

文=トヤカン

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