ライオンを殺した木の実や火事で弾け飛ぶ木の実!? 足のない植物が遠くへ移動したい欲望を叶える方法が奇妙すぎる〈ふしぎな木の実クイズ3問あり〉

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更新日:2023/11/22

世界のふしぎな木の実図鑑
世界のふしぎな木の実図鑑』(小林智洋、山東智紀:著、山田英春:写真/創元社)

「人間には足があっていいな、いつでもどこへでも歩くことができるなんて、いいな」

 もし植物に口がついていたら、そんなことをぼそっと呟くかもしれない。植物は一度根を下ろしたら、少々過酷な環境であっても、気軽に移動することができないからだ。足があればもう少しマシな環境に身を置くことができるだろうに……。では、植物はまったく移動できないのだろうか。いや、そんなことはない!

 植物は、子孫繁栄のために落とす木の実によって、移動することができるのだ。あるものは、翼や羽根をもったり綿毛となったりして空を飛んで遠くに行ったり、またあるものは川や海にぷかぷか浮かびながら、新天地に向かう。鉤爪で動物にひっついて運んでもらうものや、鳥などに果実を食べてもらって、種を糞として別の場所に排泄してもらったり、またある木の実は、山火事による乾燥を感知すると弾け飛ぶものもいるらしい。

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 そんな狡猾で奇妙な性質を持つ木の実たちなどを紹介した『世界のふしぎな木の実図鑑』(小林智洋、山東智紀:著、山田英春:写真/創元社)が、興味深い。本書は、第1章「あつまる」では分類ごとに分け、近縁の木の実でもいろんな見た目があることを表現しており、第2章「ひろがる」では、植物が移動するための「手段としての木の実」に注目し様々紹介している。最後の第3章「かたちづくる」では、外見のユニークな木の実を厳選して集められている。

 本記事では、特に第2章「ひろがる」から、いかにして植物が移動欲を叶えてきたかを暴き出したいと思う。木の実の形を観察すれば、その植物がどれだけその場から移動したいと思っているか、どれほど生息範囲を広げたいと思っているか、その欲望が手に取るようにありありとわかるのだ。

木の実に羽根がついている? 「回転しながら落ちる」木の実

世界のふしぎな木の実図鑑 P.64-65
メグスリノキ。ムクロジ科。日本固有のカエデの仲間である落葉高木。

 カエデなどのある種は、がくや実の一部を羽根状に大きく発達させている。5~10メートルくらいの高さから、風や空気抵抗を羽根に受け、くるくる回転しながら効率よくその場を離れていく。一回きりの飛行の旅、そのためにわざわざ羽根をこしらえることから、それだけ移動が繁殖に重要であることを示している。

世界のふしぎな木の実図鑑 P.70-71
フタバガキ科。東南アジア原産の常緑高木。5枚の羽根を持つ。

 ウサギの耳のような羽根を5本も持つのが特徴的なこの木の実。プロペラのようにくるくると回転しながらゆっくり下降していく様は、竹とんぼを見ているような感じらしい。また大きな木になれば1本につき木の実は1,000個を超えることもあるらしく、何百個もの木の実が落下していくのは圧巻だろう。また、羽根ではなく木の実に注目すれば、4種のうちのショレア・シアメンシスだけ、実が上側に露出しているのも面白い。どのような生態的な利点があって、このような形になったのだろうか? 知的好奇心は尽きない。

ライオンを殺した木の実!? 動物にくっついて移動する木の実

世界のふしぎな木の実図鑑 P.78-79
ライオンゴロシ。ゴマ科。アフリカ南部原産の多年生草本。

 ライオンゴロシと呼ばれるこの種の実だ。その名の由来に「ライオンがこの実を口にひっかけてしまい、物を食べられなくなって死に至った」という逸話があるらしい。複数の腕のようなものをあらゆる方向に伸ばし、その先についた棘で動物の体毛にくっつき、遠くまで種子を運んでもらうことを戦略にしている。また、釣り針の返しのようにやや反り上がった部分には、より遠くへ運ばれたいという飽くなき欲望を垣間見ることになる。

極度の乾燥や、山火事を感知すると種子が放出されるドMな木の実!?

世界のふしぎな木の実図鑑 P.104-105
クリケットボールハケア。ヤマモガシ科。オーストラリア西南部原産の乾燥地に自生する常緑小高木。

 極度の乾燥や山火事の熱によって実が開き、種子が放出される性質を持つ。他の植物が育ちにくい環境をあえて選び、高温に耐えうる硬い殻を持つこの木の実は、まさにドMな木の実という形容がふさわしいだろう。ちなみに、クリケットとは、バットでボールを打つ野球の原型と呼ばれるスポーツで、そのボールがまさにこの木の実そっくりなのだ。世界の競技人口は実に3億人。この植物が自生するオーストラリアでは特に人気のスポーツだ。

ドングリを拾ってポケットに詰め込んだ幼少期を思い出しながら

 本書には約300種の奇妙な形・色・性質の木の実が紹介されている。もっとグロテスクな見た目のものや、スチールウールのような殻斗(一般に帽子と呼ばれる部分)をしたドングリなど見ごたえ抜群だ。手に取ってみてはいかがだろうか。

 また、本書を読み、幼少期にドングリをポケットに入れて持ち帰ったことを思い出した。この行為がすでに、木の実を別の場所に運ぶという観点から、植物の欲望を叶える従順な使いっぱしりになっていることを意味していたのかもしれない。大人になった今でこそ拾わないが、もしかしたら、ドングリには子どもの心の底に訴える隠された魅力があり、それをまんまと利用しているのだろうか。

 続いて3問ほど、この図鑑に出てきた木の実に関するクイズを用意した。次のリンクからクイズに挑戦してみてほしい!

文=奥井雄義

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