乳幼児とその家族を支える“保健師”のお仕事。生きることの意味を問いかける爽やかな読後感の職業マンガ『保健師がきた』

マンガ

PR更新日:2023/11/17

保健師がきた
保健師がきた』(埜納タオ/双葉社)

 保健師と地域の人々の交流をやわらかなタッチで描く『保健師がきた』(埜納タオ/双葉社)の第1巻が、10月17日に発売された。前作『夜明けの図書館』では、図書館司書のレファレンス業務を通して人助けの温かさを表現した埜納タオ先生。職務と人との関係にフォーカスする作品を得意とする埜納タオ先生が今回描くのは、地域で奮闘する保健師の姿だ。健康な人も、病気や困難を抱える人も、その人らしい暮らしができるようサポートするのが保健師の使命。地域の健康のために邁進する彼らの活躍を追いながら、困っている人の心に繊細に寄り添う一作となっている。

 新米保健師の三御一花(通称:サンゴ)は、乳幼児とその家族を支える母子保健係として活動中だ。さらに年齢性別関係なく、日常生活に困りごとを抱える地域の人々の支援も担っている。サンゴは新人ならではの壁にぶつかりつつも、住民たちの穏やかな暮らしのために心を尽くしてゆく。

「保健師」と聞くと、ちょっとだけやっかいな思い出を抱えている人もいるかもしれない。子育て経験者であれば母子健診や家庭訪問で「なんだか噛み合わないな」と悲しい思いをしたり。健康診断で体調管理について口すっぱく説明をうけ、どんよりした気持ちになったり。本作でも、サンゴら保健師の活動に対して心を閉ざす住民たちが登場する。

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 健康診断の結果で危険信号が出た酒屋の店主は、サンゴから食生活の改善を提案される。面倒に思いながらも生活改善に熱心に取り組む店主だったが、日々のストレスから暴食生活に戻ってしまい、サンゴの支援を拒絶してしまう。閉ざされた店主の心にどう寄り添うべきか。サンゴは思案を重ねながら、まっすぐに語りかける。「将来…たとえば数年後、どんな自分でありたいですか?」と。

 仕事で、家事で、子育てで。こうすべき、あぁすべき、という「べき論」は世の中に溢れていて、役割に応じた「やるべきこと」を見つけるのはとてもたやすい。しかしそれによって自分や大切な人を痛めつけてはいないだろうか。誰とどんな暮らしをして、どんな表情で生きていきたいか。そうやってなりたい未来を描くことが、巡り巡って健康な心と身体を保つための礎となっていくのだと、本作はわたしたちに伝えてくれる。

 保健師は、介護や看護といった生活に根付くあらゆる知識に富んでいることはもちろん、利用者とのコミュニケーションが何より大切な職業だという。日常生活のデリケートな部分に入り込み、信頼を得るにはそれなりの経験と技術が必要なのだ。新人ゆえ経験値の少ないサンゴは、マニュアル一辺倒の対応に陥ることもしばしば。そんな姿がとても歯がゆいのだが、先輩からの教えである「誰ひとり取りこぼさない」という信念のもと、相手の心に寄り添うとはどういうことかを考え、理解を深めていく。サンゴと住民たちとの想いが通じ合った瞬間の、風がフワッと通り抜けていくような爽やかな読後感は埜納作品ならではだ。

 保健師という仕事の魅力もさることながら、生き方を見つめ直すヒントとしても心に刺さる『保健師がきた』。ぜひ手に取っていただきたい。

執筆:ネゴト / あまみん

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