韓国で60万部突破の心理学書が日本初上陸!他人の視線に敏感な「スポットライト効果」から抜け出すには?様々な悩みに精神科医が寄り添う1冊

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公開日:2023/12/6

人間として最良のこと as a person
人間として最良のこと as a person』(キム・ヘナム:著、バーチ・美和:訳/日経BP)

 何かの小説に書かれていそうな希望が詰まったエールや綺麗なだけの言葉では到底、心が救われそうにない日が日常の中にはある。現代の社会は、たった一度の失敗も許されないような厳しさがあり、身動きが取れなくなってしまうことも多い。

 だが、『人間として最良のこと as a person』(キム・ヘナム:著、バーチ・美和:訳/日経BP)に記されている厳しくも温かい言葉の数々に触れると、強張った心が少し和らぐかもしれない。

 著者は韓国の精神科医、精神分析医。本書は、韓国で60万部を記録した心理学書だ。詰め込まれているのは、通り一遍ではないからこそ役立つ人生訓。仕事や恋愛など、あらゆるシチュエーションでの悩みを例に出し、心の荷物を下ろせる生き方のヒントを紹介している。

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■人生は「絶対にやらなければいけない宿題」ではない

 あらゆる荷をひとりで背負い、職場でも家でも恋愛中も、骨が折れることを引き受ける人が世の中にはいる。著者いわく、このタイプは内面に「私でなければだめ」という誇大自己と共に、多くの場合、自分に対しての強い罪悪感があるそう。そのため、愛されたり認められたりする代価として、自分自身を差し出してしまうのだとか。

 そんな生き方をしている人に向け、著者は心から喜びを感じられる犠牲でなければ、明日からやめてもいいとアドバイス。愛の取引で生まれた自己犠牲は自分自身を失うだけでなく、あるがままの自分を愛してくれる人を得る機会も失うと忠告している。

 他者のフォローやケアに取り組む優しさは、尊いものだ。だが、そうやって宿題をこなすかのように生き続けているあなた自身のケアは、あなたにしかできない。目の前に現れる課題や業務は宿題ではなく、好奇心から行う自由研究や仲間と協力してやり遂げるグループ研究であると捉え、自分を犠牲にしない愛情表現を考える機会を作ってほしい。

■他人に仕事を任せられない人の心理とは?

 他人に仕事を任せられない人は、自分しか信じられない人間のように見える。だが、著者によれば、彼らは自分自身も信じられず、常に緊張し、不安な状態で生きているそう。もし、自分自身がこのタイプである場合は、まず自分を信じ、他人の見方を変えていくことが大切だ。

 信頼はギブアンドテイク。だから、あなたが他人を信じられずにいれば、他人もあなたを信じられない。だが、自分自身を善良な人や間違いを修正できる能力がある存在だと思ったり、間違えた時よりも合っている時のほうがずっと多かったと確信できたりすれば、他人も自分も同じようなものだと分かるはずだと著者は指摘。心が楽になる世の中の捉え方も説いている。

“(中略)世の中とは少し足を踏み外しても転がり落ちるところではなく、人々が信じあい、助け合いながら暮らすことができる、それなりに生きる価値があるところだとわかるはずです。”(引用/P217)

 何かと他人の言動が気になる今の時代だからこそ、自分と身近な人を少しずつ信じ、許す勇気を持っていたいものだ。

■もう「スポットライト効果」から抜け出そう

 自分が他人の目に、どう映っているのか気になる。SNSの普及により、近年はそうした風潮が高まっている。

 だが、他人から注視されていると思える時、本当に自分を注視しているのは他ならぬ自分自身であると著者は指摘。いつ別のところに移るのか分からない他人の視線に敏感に反応し、スターのようにスポットライトを浴びていると錯覚して苦しむ「スポットライト効果」から抜け出そうと優しく諭す。

“わたしたちに本当に必要なのは、二本の足で大地を踏みしめて生きているといえる安定感と自信、そして自分自身を愛する気持ちです。つまり、みずから褒めることができなければいけないのです。”(引用/P90)

 他人の視線に重きを置くのではなく、自分が私の真のファンになれるよう、努力の方向性を変える、この処世術。自分を愛せない人にこそ届いてほしい。

 本書には他にも、仕事中毒な現状を変える4つの具体策や、なぜ人間は結婚するのかという哲学チックな問いへの回答など、幅広い悩みを解決に導く助言を収録。人気ドラマや小説に登場するキャラクターの生き方を例に出した著者の人生訓は単なる綺麗事ではなく、今の社会にある不自由さや冷たさも考慮されたものであるからこそ、役立つ。

 仕事や恋愛で悩んでいる方はもちろん、子育て中や自分の在り方が分からなくなってしまった方の心も和らげてくれる本書は、しっかり生きようともがくあなたに伴走する優しい一冊だ。

文=古川諭香