『わたしの幸せな結婚』作者が描くもう一つの傑作ラブストーリー『宮廷のまじない師』。壮大な世界観で描かれる中華ファンタジーから目が離せない!

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/11/17

宮廷のまじない師 秋日の再会に月夜の毒呪

 コミックやアニメ、さらにはSnow Man・目黒蓮さん主演の映画にもなった『わたしの幸せな結婚』。もともとは人気作家・顎木(あぎとぎ)あくみさんが投稿サイトでスタートした小説がもとになったヒット作だが、実は顎木さんが現在もうひとつの傑作ラブストーリーを執筆中なのをご存じだろうか。それがこのほどシリーズ4巻目『宮廷のまじない師 秋日の再会に月夜の毒呪』が刊行された「宮廷のまじない師」シリーズ(ポプラ社)。皇帝と天涯孤独の少女の身分違いの恋と、1000年前に封印された歴史が複雑に絡み合う壮大な中華ファンタジーだ。

 主人公は白髪に赤い瞳の少女・李珠華。異様な容姿から鬼子と呼ばれ、親に捨てられてしまった彼女は、街のまじない屋を営む燕雲を師匠に「まじない師見習い」として働いていた。物語はそんな珠華が店番をする燕雲の店に、陵の国の超絶イケメン皇帝・劉白焔が古い指環の鑑定を頼みにやってくることからはじまる。白焔こそがこの物語のヒーローで、身分違いも甚だしい二人がさまざまな事件を経て次第に心を通わせ(というか、究極の俺様キャラである白焔がぐいぐい珠華に迫り)、ピュアでもどかしい「恋」を育む。熱心に迫る白焔にちょっとツンデレな珠華…そんな二人のやりとりは実にほほえましく、萌える。

 といっても二人を取り巻く状況は、かなり激しい。1巻『宮廷のまじない師 白妃、後宮の闇夜に舞う』では、後宮で起きている怪異と白焔にかけられた奇病の呪い(女性に触るとじんましんが出る)を解決するために偽の妃として珠華が後宮入りし、嫉妬に狂った妃たちの妨害で苦戦を強いられる。続く2巻『宮廷のまじない師 怪き幽鬼と星夜の奇跡』では、珠華は皇帝や妃嬪一行にまじって「星の大祭」が行われる南の国まで旅をして幽霊の噂の真偽を確かめ、3巻『宮廷のまじない師 新米巫女と猩猩の鳴く夜』では、正式な形で白焔の力になりたいと宮廷巫女を目指す珠華が、いきなり妖怪退治の大役をまかされる。そして最新の4巻『宮廷のまじない師 秋日の再会に月夜の毒呪』では、久しぶりに宮殿を訪れることになった白焔の実母・翠琳の警備をまかされた珠華が次々に怪異を撃退するものの危うく間一髪のところまで追い込まれてしまう――。

advertisement

 こうした「vs怪異」にまじないで立ち向かう珠華の活躍も読みどころだが、なんといっても面白いのは、この物語の背景に陵の国が建国された1000年前に封印されたはずの歴史の闇が大きく影を落としはじめることだろう。平和だった王宮に不穏な事件が増え、陵の建国を助けたとされる七宝将が次第に現世に姿を現わすようになる。最新の4巻では指環の謎が深まる中で、貴族たちの陰謀、妃嬪たちの愛憎などの思惑が絡み合って物語がさらに加速。一方、二人のラブロマンスも切なく愛おしく進行し、ついに白焔は珠華を妃に望むように…その緩急のバランスは絶妙だ。

 そのほか珠華の幼馴染の子軌、師匠の燕雲、式神のサンとロウ、先輩の法和…と、登場するキャラクターも実に魅力的で頭の中にビジュアルが浮かんできそうな解像度。中華ファンタジーならではのスケールの大きさを楽しみつつラブロマンスに萌える読書体験、これは中毒になりそうだ!

文=荒井理恵

あわせて読みたい