野球をあきらめた少女が目指すのは華道の甲子園! 青春文化系部活コミック『ハナイケル -川北高校華道部-』

マンガ

公開日:2023/11/16

ハナイケル -川北高校華道部-
ハナイケル -川北高校華道部-』(山田はまち/小学館)

「一度折れても花は咲く」

 花の蕾がついた枝が何かの理由で折れたとしても、あきらめる必要はない。その花を咲かせることは可能だ。情熱さえあれば。何かが背中を押してくれれば――。

ハナイケル -川北高校華道部-』(山田はまち/小学館)はそんな一度は“折れた枝”である高校生たちが「花の甲子園」を目指す物語だ。

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 いわゆる文化系部活もので、華道部の「即興花いけ」を題材にしている。「即興花いけ」とは、与えられた花材で時間内に“作品”を作り上げる、創造性と複数人のコンビネーションを必要とする競技だ。一瞬のひらめきやアイデアと、コンビプレーで戦うという意味では、ほぼチームスポーツである。本作はこの高校華道に情熱を傾ける少年少女たちの青春ドラマだ。花や華道に詳しくなくても間違いなく楽しめる激アツな作品である。

野球をあきらめた女子高校生の新たな目標は「花の甲子園」

 幼い頃から野球一筋だった少女・村上もみじは、怪我で野球をあきらめ、地元の川北高校に入学した後も塞ぎこんだ日々を送っていた。ある日、何者かに折られた枝を手にして佇む華道部の部長・水原サクラと出会う。サクラはまさに華のある美人で、もみじは目を奪われる。

 そしてサクラが見せてくれた「即興花いけ」は華道のイメージを覆すダイナミックなもので、もみじは心を奪われる。花や枝を選び、小走りで取ってきては花瓶へ挿していく。まるでスポーツのように汗をかきながら完成したサクラの作品はもみじの胸を高鳴らせた。しかもふたりが出会った場所にあった折れた枝も、効果的にいけられていたのである。

 サクラに華道部へ勧誘され、もみじは考える。折られた枝も作品になれた。しかも蕾さえ残っていれば花を咲かせることもできる。何かに夢中になることを怖がっていたもみじは入部を決める。華道部を、新たに情熱を捧げる場所とするのだ。

 華道部の先輩男子・イツキとのコンビネーションに苦労しながらも、もみじは自身の才能を開花させていく。まず3人は、高校華道部にとってのもうひとつの重要な大会「花いけバトル」に挑む――。

一度は“折れた枝”が花を咲かせる物語

 実は川北高校華道部のメンバーは、もみじと同じく一度は“折れた枝”である。イツキは華道に出会うまでは、ずっと折れたままであった。子どもの頃から気が弱く、弱さを克服しようとボクシングを始めたが、それほど強くはなっていない。ある日、ボクシングの練習でボコボコにされたときサクラに出会い、励まされ、華道を本気でやり始めた。クールで虚勢を張りがちで口が悪く、コミュニケーション下手だが、光を求めて伸びる花・小手毬のように、必死にもがきつつ成長しようとしている。

 サクラは華道の腕は確かで、部長としてもみじとイツキに慕われ、リーダーシップもあり部をしっかりまとめあげている。人あたりも良く、もちろん花が大好きな少女だ。非の打ちどころがなく見える彼女も、実は折れていたことがある。サクラは華道の名門の家に生まれ、家元を目指していた。しかし弟が成長したとき、その圧倒的な才能の前に次期家元の座を譲り、華道から離れていたのだ。高校に入学後、再び華道を始めたサクラは改めて稀有な才能たちと対峙する。

 その才能こそ、花いけのセンスの高さをうかがわせるもみじと、華道部の名門として名をはせる清光高校1年生の里美ツバキだ。ツバキは花屋に生まれ、花に囲まれて育ち、草花の知識や色彩感覚、インスピレーションを感じる力が別格であった。彼女の作品は即興でいけたとは思えないほどの絵画のような完成度で、もみじはもちろんサクラも圧倒される。この突出したセンスや才能にどう勝つのか。コーチとして華道部に来ている野原ミナミは「センスはロジックで補える」という。

“折れた枝”にだってやれることはまだまだあるのだ。

 何より、心の成長が彼女たちの伸びしろだ。華道の奥深さと魅力を知り、学び、ぐんぐん成長するもみじと、彼女の柔軟さや自由な発想に刺激を受けるサクラとイツキ。3人がどんな風に花をいけ、どんな作品を創造し、どんな花を咲かせるのか。注目してもらいたい。

文=古林恭

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