運動しても痩せないダイエットの謎。1万2000年以上前の人間と同じ狩猟生活を続けるアフリカに住むハッザ族から導かれた消費カロリーの事実

暮らし

更新日:2024/1/24

運動しても痩せないのはなぜか
運動しても痩せないのはなぜか』(ハーマン・ポンツァー:著、小巻靖子:訳/草思社)

 1日の総消費カロリーは運動しても増えていなかった、そんな衝撃的な帯のついた『運動しても痩せないのはなぜか』(ハーマン・ポンツァー:著、小巻靖子:訳/草思社)。X(旧Twitter)上で話題になり、ショックを受けながら手に取ってみた。

 デューク大学の人類進化学の准教授であり、人間のエネルギー代謝学と進化に関する研究者として国際的に知られる著者が、長年のフィールドワークや最新の研究で明らかになったデータを「ダイエット論争」に突きつけている本だ。

ライフスタイルは違ってもカロリーの消費量が変わらない!?

 運動と言えば、ダイエットには必須。世の中にはサプリメントやカロリー制限などの運動しないダイエットも溢れているが、結局効果があるのは運動だと、リングフィットを買ったり、ジムの会員費を払ったりしている人たちは信じたいはず。それが「運動しても消費カロリーは増えない」なんて衝撃が大きすぎる。

advertisement

 著者は、アフリカに住むハッザ族という、文明化されていない狩猟民族と生活を共にし、1日の摂取・消費カロリーなどを確認しながらフィールドワークを行い、この結論にたどり着いたという。正直カロリーやエネルギーの話はかなり専門的であり、難しい。読んで全てを理解できたかというと私には厳しかった。

 しかしスマホもパソコンも、化学調味料もない暮らしをしている人々が今もいるとは思いもよらず、ハッザ族の生活を知るのはとても興味深く、引き込まれた。一日に何キロも歩き、狩りをし、運動しているその人たちと、一日座って仕事している私と消費カロリーがそう変わらないとのこと! にわかには信じがたかった。

他の狩猟採集民や1万2000年以上前に生きていた人々と同じように、ハッザ族は作物の植えつけをせず、家畜を飼わず、植物を育てず、機械、車、銃もなく、文明の機器を一切所有していない。

 サバンナの手付かずの自然の中を毎日8キロ以上歩き、子どもをおぶりながら10キロもの芋を持ち帰るようなこともざらだそうだ。そんな人たちと消費カロリーが同じ……? 運動量が増えればカロリーは消費できるはず、と考えがちだが、どうもそうではなく、人間の体は1日のカロリー消費量を一定の範囲内におさめてしまうのだそうだ。

運動のメリットはちゃんとある

 じゃあ運動なんていらないんだ!と短絡的に考えてしまっていないだろうか。私は速攻でその結論に達したが、それもまた違うと著者はストップをかける。

 第7章「ヒトの体は運動を必要としている」のタイトル通り、運動は私たちの体に必要なのである。気分転換の役割やストレスの軽減、炎症や病気の抑制など、さまざまなメリットをもたらしてくれる。もっともメダリストレベルのアスリートだとまた違う問題も生じるようだが、運動が大切な理由も裏付けに関してもきちんとページを割いて説明されている。

 結局のところ、健康に生きるためには、運動が必要なのである。現代人は運動しなくなったといわれるが、ハッザ族の運動量をみるに、本当に運動をしなくなっている。私などほぼ完全テレワークなので、読んでいて運動しなきゃ……とソワソワ焦っていた。

私たちの体について改めて知ることができる本

 現代人といえば、食生活も相当に変化した。人は食べたもので作られるとよく言われる。第2章「代謝とはいったい何か」にある「昼食に食べたピザは体の中でどうなるか」という項目では、ピザを主要な栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)に分け、どう消化されるのかが説明されている。その仕組みは複雑かつ合理的でこうなっているのかと素直に驚いてしまう。

かなりの数のアメリカ人が、文字通り、歩いて話をするビッグマック(ただし構成し直されたもの)だと思うとぞっとする。

 と著者は書いているが、考えてみればそうなのである。日本人だとさしずめ歩いて話をするコメと大豆だろうか。他にもデザートが別腹とはある種の真実であることなど、専門的ではあるが興味深いことが盛りだくさんである。

私たちの体の問題は環境問題にもつながっていく

 最後の章では急に化石燃料の枯渇など、エネルギー問題に切り込む。ハッザ族とは違う、工業化された社会ではどのようにエネルギーが使われているのか。どうも、便利で怠惰な生活は、限りある資源エネルギーを食い尽くすこととほぼイコールのようだ。私たちが食べているドーナツが、地球のエネルギーをバクバクと食べている。そう考えると、スケールの大きな話である。読み切るのは大変だが、目からうろこの体験ができる本。ぜひ、分厚さに挑戦してみてほしい。

文=宇野なおみ

あわせて読みたい