女性が言うと「生意気」だけど、男性が言うと「自信がある」。元Google社員・現コメディアンの女性が皮肉を込めて書いた、女性向けのハウツー本

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/3

男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法
男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法』』(サラ・クーパー:著、渡辺由佳里:訳/亜紀書房)

男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法』(サラ・クーパー:著、渡辺由佳里:訳/亜紀書房)というスゴい題名の翻訳本が発売された。

 内容はホントに題名通りで、「職場で男性に配慮しながら、女性が成功するには何をどうすべきか?」をイラストを交えて解説するものだ。

 この題名には、「男女平等が求められる今の世の中で、こういう本を出すのはどうなのか?」と疑問を持つ人もいるかもしれないが、「『お気持ちを傷つけず』って仰々しい言い方からして、皮肉を込めたタイトルなのでは?」と感じる人が多いだろう。

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 そう、この本は、働く女性が「男性への配慮」や「“女性らしい”自重」を求められるアホらしい状況を、そのまま描写することで風刺しているパロディ的なハウツー本なのだ。なお著者のサラ・クーパーさんは、Yahoo!やGoogleで働いたあとコメディアンとなった異色の経歴の持ち主だ。

娘を職場に連れて行く→男だと「家族思い」で女だと「無責任」!

 では、具体的にどんなことが書かれているのか、第2章の「男のように語りながらも女らしさを失わないコツ」から一部を紹介してみよう。

 この章では、左側に男性のイラスト、右側に女性のイラストが描かれ、同じセリフを言ったときに周囲にどう受け止められるかが紹介されている。たとえば以下のような形だ。

セリフ:「このプロジェクトを率いるのは、私が適任です」
男性が言った場合の印象:自信がある
女性が言った場合の印象:生意気

セリフ:「今作業に集中しているので、話は後でもいいですか?」
男性が言った場合の印象:仕事に集中している
女性が言った場合の印象:怖い女

セリフ:「4人、子供がいます」
男性が言った場合の印象:家族を養える給料を与えるために昇進させてあげなければ
女性が言った場合の印象:彼女が家族の面倒をみられなくなってはいけないから昇進させるわけにはいかない

セリフ:「明日娘を職場に連れてきてもよろしいですか?」
男性が言った場合の印象:家族を大切にしている
女性が言った場合の印象:無責任

 あまりの印象の違いに笑ってしまうだろう。なお実際の書籍では、文章と一緒に大きなイラストが掲載されていて、その表情や仕草が可笑しみを倍増する点も強調しておきたい。

 そして重要な点は、ここで描かれた印象の違いが「著者が捏造したギャグ」などではなく、この世の中のリアルな状況に限りなく近いということだ。

 具体的なシチュエーションから社会のステレオタイプを炙り出し、極端な対比や多少の誇張、皮肉でしかない自虐などを交えて、多くの人が笑える本に仕上げたのは、間違いなく著者の手腕だ。

 だが一方で、「同じことをしても男女の扱いが違いすぎて、(その不当さに怒りを覚えつつも)あまりのヒドさに笑っちまうような状況」が今の世の中には確実に存在している。

 上記のギャグがアホらしくて笑えるということは、「この世の中の女性はアホらしいと感じるほど不当な扱いを受けている」ということとイコールなのだ。これは、本書を笑って読みながらも決して忘れてはいけないことだ。

 そして本書を読んでいると、ここ日本でも「G7の女性活躍担当大臣の会合で日本だけ男性大臣が出席した」「神奈川県が作った『かながわ女性の活躍応援団』のポスターに男性だけが並んでいた」といったギャグみたいな状況が起きていたな……と思い出す。

 また8章の「初心者向けガスライティング」で紹介されていた「質問に答えられない時には、すでに回答済みだとかわす」「答えにくい質問をされたら、それとなく関連している答えやすい回答で逃げる」という対話の手法の具体例は、この国の国会議員の答弁を想起させる。日本だったら、この具体例の一つに「進次郎構文」も加えられそうだな……とも考えてしまった。

 ……というように、本書は笑える本でありながらも、日本の読者が読んでも非常に学びが多く、考えさせられることも多い内容になっている。風刺を入り口に学びを得られる本は日本には珍しく、日本の芸人の思考回路からは出てこなそうな笑えるネタも多いので、ぜひ「笑える本」を買うつもりで、まずは手にとってみてほしい。

 ちなみに筆者がいちばん爆笑したのは、「履歴書をジェンダー・ニュートラルにしましょう」という項目で書かれた、「(女性が)箇条書きの時に男性シンボル(♂)を使う」というアドバイスだった。

文=古澤誠一郎