『ちびまる子ちゃん』が大人になるとこうなる!? 漫画家・さくらももこが3年分の日記に綴った、多趣味で繊細な素顔とは

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/19

ももこのまんねん日記
ももこのまんねん日記』(さくらももこ/集英社文庫)

 漫画家のさくらももこさんが亡くなってから約5年半の月日が流れた2024年1月、彼女の知られざる日常が綴られた『ももこのまんねん日記』(集英社文庫)が刊行された。2008年の後半から2011年の年末まで、生前は1年ごとに発売されていたものが約3年分まとまっており、彼女が普段好きだったもの、影響を受けていたものなどが、より色濃く感じられる一冊となっている。

ももこのまんねん日記 P42

ももこのまんねん日記 P43

 日記によると、さくらさんはカラオケ、民芸品、ゲーム、カブトムシの飼育…など多趣味で、とにかく好奇心旺盛だったようだ。カラオケにいたっては自宅にカラオケルーム「ドレミ」を作り、親しい友人を呼んでは朝まで歌いながら飲んでいたらしく、にぎやかな時間を過ごすのが好きだったことがわかる。音楽好きでもあり、敬愛するGReeeeNが解散するというウソ情報に翻弄された話や、もともと交流のあったaikoが自宅に遊びに来たときのエピソードなども綴られている。

 漫画をはじめ、エッセイ、絵本、作詞、脚本などジャンルの枠を超えて表現していた彼女は、好奇心旺盛だったから表現の幅が広がったのか、表現の幅を広げるために好奇心旺盛だったのか…。いずれにせよ、本人が「あたしゃ、ふざけるふざける。それが“毎日たのしい”の秘訣だよ」と語っているように、ちびまる子ちゃんが大人になったらこうなるのかも…と想像してしまうような楽しい毎日を送っていたようだ。

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ももこのまんねん日記 P264

ももこのまんねん日記 P265

 作品数の多さでも知られているが、日記を読むかぎり、もともとマメで、創作をするのが好きだったようだ。全国の新聞に毎日4コマ漫画を描いて多忙を極めていたこの頃、この日記も1ヶ月に2~3回は書かれているし、おそらくほかの仕事も山ほどあったと思うが、膨大な仕事量をこなしながら、カラオケルーム「ドレミ」の看板をていねいに似顔絵つきで描き、飾っていたらしい。酉の市で買ったかわいい熊手に影響を受け、何の記念日でもないのに“縁起のいい絵”のリトグラフを友人に配った…という友達想いらしいエピソードもある。“なまけ者”を名乗るいっぽうで、ストイックな一面が感じられ、やりたいことが次々と湧いてくるような人だったのではないだろうか。

 この時の熊手のほかにも、小さな民芸品や、パーティーでもないのにどうしても欲しかったというドレスなど、彼女が愛でたかわいいものが本書にはたくさん登場する。かわいい絵を描く彼女は、かわいいものを集めるのが好きだったようだ。そこからインスパイアされることもあったに違いない。

 当時10代半ばだったという息子さんと過ごした日々のエピソードも、個人的に気に入っている。「最近あんまりほめてくれなくなった」という息子さんから「スペシャルのアニメけっこう感動したよ」(※2010年に放送された『ちびまる子ちゃん』のアニメ20周年スペシャル)と言われてハッとする姿からは、大事な息子さんがどんどん手離れしていくのを寂しがる様子が感じられ、母心に深く深く共感してしまった。

 現在全国で順次開催されている『さくらももこ展』の会場では、来場者へ向けた挨拶文を息子さんが綴っているそうで、さくらももこさんのファンとして彼女の親子関係を長く見守ってきた人ほど感極まってしまうに違いない。筆者も号泣覚悟でこの展覧会に出かけようと思っている。

ももこのまんねん日記 P218

ももこのまんねん日記 P219

 世の中で起きる天災や事件に注目した日記も多かった。3.11(東日本大震災)には相当のショックを受けたらしく、自分の仕事なんて何の役にも立たないと思い悩み、3月いっぱい4コマ漫画をお休みしたという。「どうかどうか、これ以上悲しい事が起こりませんように。あとはいい事ばっかりありますように……」と明るい毎日を願うさくらさんらしい言葉が並んでいた。ほかにも、事件や天災の被害者を心配する声がたびたびあり、とても感じやすくて繊細な人だったことが窺える。

 何よりも戦争を嫌い、奇しくも2018年の8月15日という終戦の日に亡くなったさくらさん。現在のロシアによる軍事侵攻やイスラエルの戦争を知ったら何を思うのだろうか…。

(P113のあとがき引用)「自分が本当に求めている事は何か、自分と他との繋がりのバランスをとるために必要な事は何か、このような事を考える時間は大切です。答えが出る事ばかりではありませんが、自分と向き合う時間の中で得る事はたくさんあります」

 社会や物事を俯瞰で見つめながら、いつも人々の平穏を願い、さまざまな事柄に想いを張り巡らせながら、明るさとダークサイドを併せ持つ人間らしく繊細でシニカルな作品を生み出してきたさくらももこさん。自虐的なギャグを飛ばしながら面白おかしく表現された日常のなかに、“さくらももこワールド”の真髄のようなものが感じられるはずだ。

文=吉田あき

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