読めば必ず親に会いたくなるマンガ『てつおとよしえ』。背が小さくなり手がしわが寄りはじめた母の姿に涙…

マンガ

公開日:2024/2/12

てつおとよしえ
てつおとよしえ』(山本さほ/新潮社)

 普段、家族との思い出を振り返ることなどない。しかし『てつおとよしえ』(山本さほ/新潮社)を読むと、「そういえばうちもこんなことあったなー」と、ふと頭に出来事が想起される。著者の山本さんの「家族」と僕の家族に共通点が多かったからかもしれない。本作は、きっと多くの人が一度は感じるであろう家族愛について描かれた作品だ。読み進めるほどに家族がいかに尊い存在なのかを改めて知ることができる。

 物語の主人公は著者でマンガ家の山本さほさんとそのご両親、てつおさんとよしえさんだ。てつおさんはマイペースで好奇心旺盛、どんな機器も集めては使いこなしてしまう機械オタク。一方よしえさんは倹約家で無趣味、心配性なうえにさほさんに対しては過保護と思えるほど世話焼きな性格だ。さほさんも作中で述べているし、なんとなく想像がつくだろうが、2人の性格は真逆である。誰かと長く付き合っていくには、それなりに似た要素がないと難しいという話をよく耳にするが、てつおさんよしえさんはそれに当てはまる気配はない。しかし2人は歳を重ねても毎年のように2人で旅行にでかけるほど仲が良く、いつもよしえさんがてつおさんを叱るだけで喧嘩をしているところはほとんど見ないという。

 なぜこれまで、夫婦円満な家庭を築いてこられたのか。それはきっと互いに尊敬・感謝の念があるからだろう。てつおさんに関しては「長く会社の経営者として働けているのも、『脱サラをして好きな仕事をしたい』と伝えたときに文句を言わずに許してくれたから。そのときの恩があるからお母さんには一生頭が上がらないんだ」と述べている。てつおさんから紡がれる言葉の一つひとつには、よしえさんへの感謝はもちろん愛も込められているように感じる。よしえさんも、てつおさんのマイペースな性格に振り回されつつも楽しい日々を送れているのはてつおさんがいてくれるからだと思っているはずだ。そんな2人の気持ちを汲み取りながら読み進めてみると、きっとほっこりするはずだ。

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 また本書は、さほさんの家族への思いが綴られているところも魅力のひとつ。第18話「いつか、いなくなる?」では、大人になったさほさんとは反対に背が小さくなり手にしわが寄りはじめたよしえさんが描かれる。その姿に言い表しようがない寂しさを感じるさほさん。確かに、僕の母親も背中が丸くなり小さくなったような気がする。きっと多くの人が共感できるシーンではないだろうか。同時に頭をよぎるのが、両親と過ごせる残り時間だ。人生100年と言われ日本人の平均寿命は延びつつあるも、自分たちが大人になればなるほど、親と一緒に買い物や旅行にでかけられる機会は残り少なくなっていく。さほさんもいつか「もっと一緒に色々なところに行けばよかった」と後悔しないよう、てつおさんとよしえさんに旅行を提案する。旅行の話は涙なしでは見られないだろう。

 もし今、親元を離れて暮らしている人、長く実家に帰省していない人がいたらぜひ本書を手に取って読んでみてほしい。離れているからこそわかる親のありがたみや尊さ、子どもの頃のように一緒に何かできる時間の少なさを再認識し、親を大切にしたくなるはずだ。

文=トヤカン

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