『水は海に向かって流れる』田島列島 最新作はホラーな雰囲気ただようファンタジー。「神様になるか」と迫られる田舎の小学生が翻弄されるジュブナイル漫画『みちかとまり』

マンガ

PR公開日:2024/2/22

みちかとまり
みちかとまり』(田島列島/講談社)

「竹やぶに生えていた子供を、神様にするか、人間にするか決めるのは、最初に見つけた人間なんだよ」。このたったひとつのセリフからでも、今作の特異性が伝わってきます。『みちかとまり』(講談社)は、デビュー作の『子供はわかってあげない』、2作目の『水は海に向かって流れる』と連続して実写映画化されてきた実力者、田島列島先生による、ちょっと不思議でホラーな雰囲気もただようジュブナイルストーリーです。

 とある田舎、8歳小学生「まり」は、ある夏の日、竹やぶに横たわる少女「みちか」を見つけます。なんと、その竹やぶにはまれに子供が生えてくることがあり、みちかはその「生えてきた」存在だというのです。実際、みちかには不思議な力があり、人間の中身を入れかえてしまったり、記憶をうばったりもできます。奔放なみちかに振りまわされ、まりの思いもよらない大冒険がはじまっていくのでした。

 先生の作品に通じる最大の魅力はそのキャラクターでしょう。「落書きをしていて、そのキャラクターと目があうかどうか」「キャラクターにウソをつかせたくない」と先生が語っているところからわかるように、とにかくそこにいるキャラクター自身をなによりも大切に描かれています。厳密に先行きをきめることなく、彼女たちが動くから物語が動く。そうやってキャラクターの視点にたって徐々に物語がつむがれていくからこそ、読んでいくうえでも同じ目線で物語に入りこむことができるのです。

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 田島列島先生の作品に出てくる若き主人公たちは、必ずなんらかの困難に直面します。『子供はわかってあげない』では幼いころ母と別れた父親に会いに行ったら新興宗教の教祖になっており、教団のお金を持ちにげした疑惑をかけられていました。『水は海に向かって流れる』では進学の関係で引っこした先にいた女性が、過去に主人公の父親と、彼女の母親が不倫をしたことで家庭の崩壊を経験していました。

『みちかとまり』においては、急に現れた不可思議な力をもつ少女に振りまわされ、彼女が「人間になるか、神様になるか」という大きな選択を迫られます。どれも少年少女が体験するには手にあまる困難です。

 そのうえ『みちかとまり』にはリアルにはない要素がたくさん出てきます。みちかの持つ超自然的能力や、不可思議ないい伝え。妖怪や神様のような存在。生と死のはざまのような空間もシームレスに存在するのです。突拍子もない世界感ゆえに、物語の行くすえを予想することがまったくできません。

 しかしそんな先の読めない世界でもキャラクターファーストの信念は一貫しています。罪悪感にかられ、「山」に持っていかれた友人の記憶を探すために、単身、この世とも思えない不可思議な空間に足を踏みいれる唐突さも、彼女ならそうやって行動するのだろうと無理なく思わせてくれるからこそ、孤軍奮闘する姿を応援したくなるのです。

『みちかとまり』ではホラー的な側面も兼ねそろえており、少々グロテスクといってもいいような描写も描かれているので、ビックリする方もいるかもしれません。しかしこれまでの先生のマンガにも共通してきた、やわらかい絵柄と軽妙なギャグやセリフ回しは健在。そのため、おどろおどろしいシーンがあっても、深刻になりすぎることなく、楽しんで読み進めることができるはずです。

 キャラクターたちの思いを大切にし、対話させ、ときに対立させ、思い悩ませ、すこしずつ成長させていく。そして最後には困難を受けいれることで、大きなカタルシスとともに物語の解決をみせてくれるのでしょう。それはこれまでの作品が証明してくれています。そんなみちかとまりのふたりの行くすえを是非体感してください!

執筆 ネゴト / たけのこ

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