童話「兎と亀」の驚くべき後日譚とは!? 世界中の童話や寓話から、現代社会の教訓を学ぶ

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/2/14

グリム、イソップ、日本昔話…… 人生に効く寓話
グリム、イソップ、日本昔話…… 人生に効く寓話』(池上彰佐藤優/中央公論新社)

 時代を超えて語り継がれる、世界中の童話や寓話。子どもの頃から、多くの人が慣れ親しんできたはずだ。しかし、大人になって読むと「これはどういう意味だろう」と疑問がわいてくる作品もある。ジャーナリストの池上彰氏、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏の対談で展開する『グリム、イソップ、日本昔話…… 人生に効く寓話』(中央公論新社)は、童話や寓話から現代への教訓を読み解く一冊だ。

 本書より紹介したい1編が、イソップ童話の「兎と亀」である。日本でも童謡「もしもし亀よ」として親しまれている。足の速い兎とノロマな亀が競走し、油断して居眠りした兎が亀に負けてしまう話だが、私たちのよく知るくだりは、本来の「兎と亀」のごく一部のエピソードとは驚く。

 童話の要約になるが、本来の物語では兎と亀の競走に他の動物たちも関心を寄せていて、亀は動物たちに「勝因」を尋ねられたものの、理由を上手に答えられなかった。亀は自身の「師」である海亀からの「それは、お前の足が速いからだ」という意見を受けて、他の動物たちにみずから吹聴した。

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 その後、動物たちの暮らす森で大火事が発生する。そのとき、森のはずれから大火事の発生を見ていた兎と亀、動物たちは“誰が知らせにいくべきか”を相談し、結果として「足が速い」亀が選ばれた。しかし本来、適任であるのは事実として足が速い兎だ。なぜ、このようなことが起きたか。じつは、兎と亀の競走を他の動物たちは見ていなかったのだ…。

 動物たちに起きた、その後の惨事は想像にたやすい。では、この物語から何を学べるのか。本書では「インフルエンサーと大衆」の関係を「兎と亀」に重ねる。

 そもそも、亀の「足が速い」という話は海亀の言葉が発端で、その後、亀の吹聴により競走を見ていなかった動物たちにも事実として広まってしまった。この海亀に現代の「インフルエンサー」を重ねるのは、佐藤氏だ。インフルエンサーが「揃ってフェイクニュースの使い手だなどというのでは、もちろんありません」としながらも、海亀のように現地の情報をつかまず「専門家」として知見を広めていく人も「珍しくない」と現代社会を憂う。

 一方、池上氏は「海亀の誤認は、事実をその目で確かめていないことで起こりました」と分析し、現代のネット社会でも「現場を確かめているのかどうかのチェックが不可欠」と警鐘を鳴らす。物語に登場した動物たちは、いわば「大衆」の私たちだ。海亀がのちに“デマをバラまきやがって!”とののしられ“炎上”する光景も想像されるが、私たちも情報を鵜呑みにせず、いったん冷静に検証する姿勢が必要とも気が付く。

 本稿で紹介した「兎と亀」に限らず「花咲かじじい」や「白雪姫」、「桃太郎」など、数々の童話や寓話を扱っている本書。慣れ親しんだ物語ばかりで内容がスッと入ってくる一方、考察は深い。私たちが「どのように生きるべきかを知る材料」となりうる童話や寓話から、学ぶべきことも多い。

文=カネコシュウヘイ

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