いい文章には「感動のへそ」がある!? 講義形式で学べてゼロから「書く」達人になれるライター&編集者の必読本

ビジネス

公開日:2024/2/20

1冊でゼロから達人になる「書く力」の教室
1冊でゼロから達人になる「書く力」の教室』(田中泰延、直塚大成/SBクリエイティブ)

 世界は文章にまみれている。本以外にも、街を歩けば看板やメニュー表、パンフレットなど文章で溢れている。ネットを覗けば文字量は膨大である。一生かかっても読み切れない量の文章が存在し、文章は日々増大している。そんな世界にあって、よく読まれ、感心される文章と、誰にも見向きもされない文章にどのような差があるのだろうか。

1冊でゼロから達人になる「書く力」の教室』(田中泰延、直塚大成/SBクリエイティブ)は、ライター経験ゼロ、まったくの素人である大学院生・直塚さんが、プロのライターである田中泰延さんに講義を受けながら、ライターになる力を養っていくプロセスをおさめた本である。

 僕はライターさんの原稿を編集するかたわら、自分でもライターとして書評を書き、時にインタビュー記事も執筆している。その立場から読み、本書のおすすめポイントは特に次の3つであると考えた。1、指導が具体的であること。2、ライター志望の直塚さんの疑問が率直であること、3、具体的にどんな文章が、どう修正されたのかがすべて可視化されていること。

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 本書は、当然ライターを志している人やすでにライター業をしている人におすすめだが、僕のように編集業務を日常的に行っている人にもおすすめだと思った。文章に関わる仕事をする上で、これは重要だと思った点を数個紹介しながら、それがいかに具体的であるかも知っていただけると嬉しい。

いい文章には「感動のへそ」がある!?

 第一の課題として、直塚さんが書いたのは「皆既日食と天王星食の同時発生」をテーマにしたエッセイ。全文掲載の上、それに指摘を入れる形で、書き方指導が始まる。まず田中さんが放った、核心を突く一言。

“いい文章には決まって「感動のへそ」がある”

 つまり、何を一番読者に届けたいのか、書き手はちゃんと意識できているのか? ということだ。伝えたいことが明確でなければ、だらっとした文章で終わってしまう可能性が高い。「ここを一番言いたいんだ」という部分にかけて、盛り上がっていくような文章であれば、読者はより惹きつけられるのだ。

P.53

 本書では、「誠実に対象と向き合い、素直に書く」ことで「感動のへそ」を作ることができる、と書かれている。自分が感動したもの、心を動かされたことを誰かに必死に伝えようとする姿勢、それが読む人の心を動かすのだ。

 ただし、ただありのままの事実を書くことだけが正しいのではないらしい。時にはフィクションや、心の中から湧き上がる願望が、「感動のへそ」になることもある、と。本書では、芥川龍之介の『蜜柑』や梶井基次郎の『檸檬』を例に出して、「こうだったらいいのにな…」という切実な願望を付け加えることによっても、「感動のへそ」を作ることができると書かれている。

インタビュー時の「一番聞きたいこと」は最初に聞くな?

 インタビュー取材をする時の、細かいテクニックもかなり具体的でとても勉強になった。

 もちろん、失礼のないように、取材対象者をリサーチするなどしっかり下準備をすること、取材させてもらうという丁寧な態度で臨むこと……など抽象的な原則のようなものは直感的にわかっている人も多いかもしれない。しかし、「これはやったほうがいい」「これはしないほうがいい」という具体的な規則があると、よりわかりやすい。

 例えば、「脱線」について。

 本書では、インタビューしながら時おり「脱線」することを推奨している。相手の好きなものや自分との共通点があるならば、掘り下げてみるのが良い。通り一遍の一問一答では得られない新たな話を聞き出すことができるかもしれないからだ。

 そして「脱線」してから「本筋」に戻すテクニックについても言及されている。やはり脈略もなく話を聞いていては、インタビューを記事にした時に、だらっとしてしまう。冒頭にも書いた「感動のへそ」が薄れてしまうのだ。そのため、「脱線」しながらも「本筋」を常に頭に入れておく必要があるのだ。

 では、どうすればいいのか。本書では、具体的に次のような言葉で戻そうとするのはNGだと書かれている。

“話を本筋に戻しますが”

 これではさっきまで話が弾んでいた会話の流れが止まり、冷めてしまう可能性がある。

 脱線した会話から、本筋にしれっと戻すコツとして、

・だから
・それで
・そこで
・それと関連して伺いますが

 というように、接続詞を挟んで戻すことをおすすめしている。そうすることで、盛り上がりを維持した状態でスムーズに核心に迫ることができる。

 さらに言うと、こうした盛り上がっている状態でこそ、「一番聞きたいこと」を聞くのが良い。最初に聞いてしまうと、相手がこちら側の「どういう答えが欲しいのか」という魂胆を早々に見抜かれてしまい、それ以後、相手は不思議な虚脱感に陥ってしまうものらしい。

ただ頼みやすいライターになってはならない

 本書の良い部分はすべてが「具体的」であることだ。本稿で例に挙げた記事の書き方、インタビューの注意点の他にも、ライターとして食べていくと覚悟した時に注意したい点、(例えば、ただ頼みやすいライターになってはいけない、など)や、資料の調べ方(例えば、農林水産省のHPに書かれている情報であっても、「~といわれている」となっているのであれば一次資料に当たる必要がある)など、具体的に書かれている。

 また、チェック前の文章と、どこがうまく伝わっていないかの指摘、そして修正後の文章、という進行になっているため、読者もいっしょになって講義を受けているような体験が可能なのだ。

 冒頭にも示したように、僕は編集者としてライターさんが書いてくれた文章に日々触れている。膨大なweb記事の中で、読まれる記事とは何か、読まれた上で読者を行動させる記事とはどんなものか、改めて考えさせられた。文章を書く人、編集する人、いや文章に関わるすべての人に有益な情報を、この本はもたらしてくれるだろう。

文=奥井雄義

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