日本人の生活はクラシック音楽でできている! 炊飯器の炊き上がりや電話の保留中、結婚式で流れるおなじみの曲を徹底解説

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/16

生活はクラシック音楽でできている 家電や映画、結婚式まで日常になじんだ名曲
生活はクラシック音楽でできている 家電や映画、結婚式まで日常になじんだ名曲』(渋谷ゆう子/笠間書院)

 日本は生活の中に音楽が入り込んでいる国なのだという。確かに、お店に入れば雰囲気に合ったBGMがかかり、駅では発車のときに駅特有のメロディが流れる。小学校の給食の時間に必ず流れたクラシック音楽を聴くと、今でもお腹が空いてくる……なんてこともあるだろう。だが、多くの人はその音楽のタイトルや作曲家、曲についてのエピソードまでは知らないものだ。

 そんな日常にあふれる音楽の意外な裏側を教えてくれるのが、『生活はクラシック音楽でできている 家電や映画、結婚式まで日常になじんだ名曲』(渋谷ゆう子/笠間書院)。聴けば絶対に知っている数々の名曲の裏話を3つ紹介しよう。

保留音でおなじみ「愛の挨拶」

 炊飯器の炊き上がりの合図や洗濯機のスタートボタンを押すと流れる電子音など、家の中でも聴く機会が多いクラシック音楽。中でも多くの人が耳にしたことがあるのが、電話の保留音だろう。

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 保留音に使われている代表的な楽曲は、イギリスの作曲家エドワード・エルガーの「愛の挨拶」。美しくロマンティックなメロディは、電話で待たされる人の心を和ませるのに一役買っている。

「愛の挨拶」は、エルガーが婚約の記念に妻へ贈った曲だそう。音楽家として無名、ヴァイオリン奏者としての収入も少なかったエルガーは、ピアノのレッスンで生計を立てていた。そこへ生徒として通っていたのが妻となるキャロライン。周囲の反対を乗り越え、やっと婚約できたふたりの喜びの曲が「愛の挨拶」なのだ。そんなエピソードを知っていれば、少し長く待たされても許してしまいそうだ。

楽しい曲に悲しい歴史? 3分クッキングのあの曲

「キユーピーの3分クッキング」といえば、一度聞いたら覚えてしまう印象的な音楽。番組のオリジナル曲だと思っている人も多いだろう。あの曲も実はクラシック音楽だ。

 ドイツの作曲家レオン・イェッセルのオペレッタ「おもちゃの兵隊の観兵式」の中の一曲で、日本では「おもちゃの兵隊のマーチ」と呼ばれている。オペレッタとは、音楽劇の一種で、コミカルで楽しい作品のこと。確かに聞くだけで楽しい気分になってくる楽曲だ。

 その一方で、明るい作風で数々のオペレッタや合唱曲を作ったイェッセルには、悲しい逸話がある。音楽家の権利を守る団体の初期メンバーになるなど、音楽業界にとって重要な人物であったイェッセル。しかしユダヤ人であったために、ナチス政権下で迫害を受ける。

 職を追われ、作品は上演禁止。1941年に逮捕され、翌年に亡くなった。こんな悲劇がなければ、もっと沢山の作品が生まれていたはずだ。テレビを見て夕飯のおかずについて考えられるのはとても幸せなことなのだと思わされる。

あのクラシック音楽にそっくりな「ゴジラのテーマ」

 映画『ゴジラ-1.0』がアカデミー賞視覚効果賞にノミネートされ、話題になっているゴジラシリーズ。「デデ デン デデ デン」というメロディが印象的なテーマ曲は、作曲家の伊福部昭氏がゴジラのために作ったものだ。

 このゴジラのテーマにそっくりなクラシック音楽がある。それはフランスの作曲家モーリス・ラヴェルの「ピアノ協奏曲ト長調」。第3楽章にある変拍子の部分が、ゴジラの「デデ デン」にそっくりなのだ。それもそのはず、伊福部氏はこの楽曲から着想を得てゴジラのテーマを作曲したのだという。

 著作権についての意識が今ほど徹底されていなかった時代、メロディの使い回しや「着想を得た」という手法はよく使われていたそう。ラヴェル自身も、この楽曲を作る際「モーツァルトやサン=サーンスと同じような美意識を持って作曲した」と語っているそうだ。素晴らしい作品から刺激を受け、また新しく素晴らしい作品が生まれていくのだ。

 知らないだけで、毎日のように耳に入ってくるクラシック音楽たち。運動会や結婚式、テレビや映画などでおなじみのあの楽曲を、本書では120曲以上紹介している。掲載されている曲はすべて二次元コードからスマホで聴けるようになっているので、タイトルを見ただけで思い浮かばなくても安心だ。プレイリストを再生しながら読んでみてほしい。

文=冴島友貴

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