第22回『このミス』大賞・文庫グランプリ受賞作『卒業のための犯罪プラン』。大学内で監視し合い、騙し合うマネーゲームが面白い!

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/3/6

卒業のための犯罪プラン
卒業のための犯罪プラン』(浅瀬明/宝島社)

 2002年の開設以来、東山彰良さん、海堂尊さん、柚月裕子さん、降田天さん、辻堂ゆめさん など多数の人気作家を輩出している『このミステリーがすごい!大賞』(以下『このミス 』大賞 主催:宝島社)。受賞作にはテレビドラマ化や映画化されたベストセラーも数多く、毎度発表を楽しみにしている方もいることだろう。2024年に入り、昨年10月に発表された第22回『このミス』大賞受賞作が続々刊行され始めた。まずは1月に大賞を受賞した白川尚史さんの『ファラオの密室』(『ミイラの仮面と欠けのある心臓』より改題 宝島社)が刊行されたのに続き、 2月に文庫グランプリを受賞した遠藤かたるさんの『推しの殺人』(『溺れる星くず』より改題、宝島社)、3月には文庫グランプリを受賞した浅瀬明さんの『卒業のための犯罪プラン』(『箱庭の小さき賢人たち』より改題、宝島社)も宝島社文庫の新刊として登場する。

この物語は、木津庭特殊商科大学(通称:庭大)のキャンパス内で繰り広げられる。 と言っても普通の大学ではないのがこの物語の肝。ビジネスセンスを備えた人材の育成を目指す新興の大学で、キャンパス内だけで流通する独自通貨「事業ポイント」によって独立経済圏が形成されているのだ。このポイントをめぐって学生たちが繰り広げるマネーゲームがかなりシビア。とにかく「お金の匂い」に敏感なのだ。

ちなみにこの「事業ポイント」は学校側が発行するのだが、学食等での支払いというベーシックな使い方だけでなく単位の売買にも利用でき、なんと学期末試験の成績より稼いだポイント数のほうが評価対象になるため、ポイントを多く保有していれば4年かけずに卒業することも可能。ポイントの稼ぎ方は労働(学内バイト)や学生同士の創造物やサービスの売買だが、中にはサークルで事業を展開してポイントを荒稼ぎする強者もいるという。

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 物語はそんな庭大の2年生・降町歩が家庭の事情で突如残り半年で卒業しなければならなくなり、 卒業に必要な単位を買う300万ポイントを急遽稼がなければならなくなってしまったことから始まる。降町はほぼポイントをもっておらず、 先輩・黒河の紹介で 不正にポイントを稼ぐ者たちを摘発する「監査ゼミ」にねじ込んでもらった。 ある日、降町は家庭教師サークルを装いガールズバーを運営していると噂のサークルに 調査に赴くが、逆にサークル長の熊倉に取り込まれ、あるグレーな事業を加担することに なる…。

  学生同士がポイントという名の「通貨」をめぐって騙し合う展開はなかなかスリリング。「他人からの評価を可視化するアプリ」や「学内に張り巡らされた監視システム」など現実社会をちょっと捻ったアイディアがキーになるのには不思議なリアリティがある一方、登場人物は大学の中だから生きていられそうなキャラの立った人も多くて面白い。物語が進むほどに人間関係も騙し合いもどんどん入り組んでくるが、タッチが軽妙で読みやすいので一気に楽しめてしまう。そしてラストはパズルのピースがうまくハマったような爽快感が――。「学園もの」な青春にも、どこか「お金の匂い」がするのが庭大流だ。

文=荒井理恵

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