とんねるず・木梨憲武 ポジティブすぎる人生を語る。30年続いた『みなさんのおかげでした』の打ち切りに「ありがとね!」

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/20

みなさんのおかげです 木梨憲武自伝
みなさんのおかげです 木梨憲武自伝』(木梨憲武/小学館)

みなさんのおかげです 木梨憲武自伝』(木梨憲武/小学館)。とんねるず・木梨憲武、61歳にして初の自伝である。自伝とは成功者と言われる人が出版するもの。成功の裏には大抵の場合、苦悩や挫折が描かれる。その壁を何らかの方法で乗り越え、成功をつかむのだ。その方がストーリーとして起伏が生まれて盛り上がる。読者も満足感を得られる。だが、木梨の自伝には悩んだり、苦しんだりするシーンは一切登場しない。どんな時もポジティブな姿勢で突き進む人生だ。

 とんねるずと言えば、1980年代から木梨と相方の石橋貴明が『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』や『とんねるずのみなさんのおかげでした』などの番組で暴れまくっていた。40代以上の人であれば、芸風の好き嫌いはあるにせよ、その姿がきっと目に焼き付いているだろう。

 本書のプロローグで木梨は言う。「俺たちをおもしろがってくれて、40代、50代、60代と一緒に年齢を重ねてきたとんねるず世代にも、感謝や恩返しがしたい。(中略)俺という人間を知ってもらい、そして、もしそこに人生の後半戦を生きる『ヒント』みたいなものがあるとするならば、参考にしてくれたらうれしいと思う」。

advertisement

 木梨の人生に通底しているポジティブさは、生きる「ヒント」になりそうだ。

 彼のポジティブさを最も象徴するのが、約30年続いた冠番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』の打ち切りを伝えられたときのリアクション。初代プロデューサー・港浩一氏(現・フジテレビ代表取締役社長)から番組終了を聞いた木梨は、「ありがとね!」とお礼を言ってあっさり了承。「じゃあ、これからもっとおもしろいことやるか、って感じで受け止めた」という。

 30年続いた番組が自分たちの意思ではなく、“終わらされる”のだ。自伝としては、ここで苦悩や挫折を描くチャンスになりそうだが、そんなものは描かれない。木梨は「次行こう、次」と、もうすでに次を見据えている。一方の石橋は「俺たちは肩をたたかれた。歴史が終わった」と後日インタビューで語っていたというから、対照的だ。木梨は実際にその後、個人事務所を立ち上げ、音楽活動や個展を開催するなど精力的に活動している。

 1994年に結婚した安田成美とのエピソードもまたポジティブ。木梨と安田は映画の共演がきっかけで出会う。2人は恋人役だった。木梨はこのとき「彼女にするなら、なるさんだ!!」(木梨は安田のことを“なるさん”と呼ぶ)とアタック開始。渋る安田の反応にもめげずに、お願いし続けて交際にこぎつけた。安田が初めて木梨の実家を訪れた際、彼は母親に「たぶん、彼女と結婚するから覚えておいて」と言ったという。その言葉通り、後に2人は結婚。安田は木梨との結婚を決めた理由として、「嘘でしょ? っていうぐらいポジティブで、それも全然無理のないポジティブさというか、根っこから明るい人。その安定感がいいなと思った」という。

 こんな調子で、人生を心から楽しみ、軽やかに生きる木梨の姿が一貫して描かれる。壁を乗り越えるため、悩んだりもしない。木梨は言う。「人生にはもともと壁なんてものはなくて、困難を『壁だ』と感じた瞬間に、壁ってできちゃうものじゃないかなって思ってる」。木梨にはそもそも「壁」なんて概念は存在しなかったのだ。どこまでもポジティブ。少しは真似したい。

 本書では他にも、とんねるずが売れまくりイケイケだった時代に、超音速旅客機・コンコルドでニューヨークからロンドンまで移動したといったいかにもバブリーな話や、『笑っていいとも!』最終回時のダウンタウンや爆笑問題とのエピソードなど、それぞれの時代の空気を知ることができるのも面白い。

文=堀タツヤ

あわせて読みたい