望まぬ体になっても望みは捨てない! 弱小冒険者が魔物に転生し目指すものは? アニメ放送中のファンタジーコミック『望まぬ不死の冒険者』

マンガ

公開日:2024/3/2

望まぬ不死の冒険者
望まぬ不死の冒険者』(中曽根ハイジ:漫画、丘野優:原作、じゃいあん:キャラクター原案/オーバーラップ)

 冒険者が迷宮で命を落とした。残念ながら“あるある”だろう。ここで、不思議なことが起こった。まず彼は、死ぬまでの記憶と意識を保ったまま蘇ったのだ。さらに、気がつくとその身は魔物になっていたのである――。

望まぬ不死の冒険者』(中曽根ハイジ:漫画、丘野優:原作、じゃいあん:キャラクター原案/オーバーラップ)は、シリーズ累計200万部突破の大ヒットファンタジー小説のコミカライズ。2024年1月からTVアニメも放送中だ。

 物語は、冒険者の青年レント・ファイナが「骨人(スケルトン)」になるところから始まる。冒険者としては弱かった彼だが、知識と経験で冷静に自分の状況と向き合い、“神銀(ミスリル)級”という最高位の冒険者になるという夢を捨てずに戦い続けていく。

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魔物に転生した弱小冒険者の夢は最高位の冒険者

 冒険者になって10年、レントは自分が冒険者の才能に恵まれていないと認識しながらも、ソロで迷宮に入り、低級の魔物を倒して鍛錬と日銭稼ぎを続けていた。ある日、探索しつくされたはずの迷宮に新たな通路が突然現れ、レントは思わず足を踏み入れてしまう。そこで彼は魔物の最高位とされる「龍」と遭遇し、為す術なく喰われてしまう。

 だがレントは目覚める。彼は意識があり、生きていたのだ。ただし骨だけの魔物「骨人」の姿で。

「骨人」はすでに死んでいるとされる不死系の魔物で、存在として生きているのか死んでいるのか分からない。とはいえ、レントは人間であったときの記憶を持ったまま、その体を動かすことができた。ふと、彼の脳裏に「存在進化」という言葉が浮かんだ。それは、倒した相手から吸収した魔力が満ちると、魔物が上位個体へ変貌する性質のことだ。「骨人」のままでは声すら発することができないが、肉体を持つ魔物「屍食鬼(グール)」になれば、知り合いに事情を説明できるかもしれない……そう考えたレントは、魔物狩りを始める。しばらくすると想像通りに、彼は魔力を吸収して成長を実感し、屍食鬼に「存在進化」した。そのタイミングで、魔物に苦戦していた冒険者の少女・リナと出会ったレントは、なんとか彼女と意思の疎通に成功し、その身を包むローブと顔を隠す仮面を手に入れる。

 彼が暮らす辺境の都市・マルトに戻れたレントは、協力者になってくれそうな人間のもとを訪れた。それが友人の女性学者・ロレーヌだ。彼女はまだ20代と若いが、魔物研究の専門家で、何事も研究対象ととらえる変わり者であった。予想通り、魔物となったレントを見ても驚かず、この特殊な状態の情報を提供してくれれば寝床を提供すると言ってくれた。

 ロレーヌの考察や協力を得て、レントは武器や冒険者の資格を手に入れ、再び龍と遭遇した迷宮へ通うようになる。

 それは彼が魔物になった秘密の手がかりを得て、人間の体を取り戻すためでもあるが、それよりもレントは、10年追い続けてきた「神銀級冒険者になる」という夢をあきらめてはいなかったのだ。狂気にも似た強い思いを感じる。

 物語が進むにつれて、レントの運命に関わったとみられる人物たちが登場し、謎や伏線が次々と提示されていく。物語の最深部はなかなか見えてこない……。

得たのはチート能力ではなく望まぬ体。それでも揺らがないマイペースな主人公

 レントは「存在進化」ができるようになったが、いわゆるチート能力を手に入れたわけではない。最初はレベルの低い魔物にも苦戦していた。骨人は不死系とはいえ、死なないわけでもない。能力の向上や冒険者としての昇級に途方もない時間を要していた人間の頃よりは、早くレベルアップできるようになったが「できることをコツコツやる」という意識のままである。かなりマイペースな主人公なのだ。

 レントは人外になっても根本的には変わらなかった。彼の能力は10年で積み上げた頭脳と信頼だけであった。だがそれが大きかったのだ。状況を好転させたのは下位冒険者としての10年で得た知識と経験だった。それにより、どうかしている状況を冷静に判断し「魔物として戦って強くなる」ことを選択できた。そして彼を救ったもうひとつが信頼だ。

 冒険者としてはついぞ強くなれなかった10年の間、レントは駆け出し冒険者の手助けから、面倒な依頼の片づけまで、何でもこなしてきた。もちろん冒険者としての鍛錬もコツコツ続けていた。それらを知る人々は、彼の人間性を高く評価していたのだ。

 街に戻った彼を、誰もが受け入れ協力してくれた。ロレーヌはもちろん、鍛冶屋の夫婦や冒険者組合のシェイラは、レントの立ち居振る舞いから本人だと見抜き、正体を明かさないでいる彼に知らないふりをしたまま助けになってくれた。なお10年前、まだ14歳の少女だった頃からの付き合いがあるロレーヌには特別な思いもあるようだ。ここも注目してほしいポイントである。

“望まぬ体”になったレントが「元の人間に戻れるかどうか」は、ひょっとすると物語の趣旨ではないのかもしれない。個人的には、主人公がそこにこだわっているようには感じないからだ。レントは述懐する。「強大な魔物と戦い多くの謎に出会い、強くなっていく、これは憧れの冒険者のあり方そのものだ」と。周囲も心配はしていても、変わらず彼に接している。逆にロレーヌにいたっては、魔物となった友人に以前よりも強い興味を抱いている。

 とにかく彼が気にしているのは「必ず神銀級冒険者になる」という夢だけなのだ。揺るぎない意志を持つヒーローの活躍を楽しんでみてほしい。

文=古林恭

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