『人間失格』がZ世代に支持される理由も明らかに。昭和生まれの著者が驚いた若者の読書冊数V字回復の現実

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/2

「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか
「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(飯田一史/平凡社)

 Googleで“若者の○○離れ”と検索すると、“うざい”というサジェストが出てくる。本稿筆者は40代だが、自身と同じ世代が「若者は……」と話しているのを見ると、辟易してしまう。

 その“○○”に入るものは無数にある。例えば「本」はどうか。「若者の本離れが進んでいる」「歯ごたえのある文学を読まなくなった」という意見は、いわば“オッサンたち”の幻想だ。書籍『「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(飯田一史/平凡社)を読むとよく分かる。

 本書は若者の読書についての「思い込み」を覆す一冊だ。データから導き出された若者の読書の実態、若者に読まれる本のニーズは、強い説得力がある。

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学校で広がる「朝の読書」で書籍はV字回復

「若者の本離れ」は、単なるイメージにしか過ぎない。本書では参考として、公益社団法人全国学校図書館協議会による「学校読書調査」より、小中高生の「平均読書冊数」「不読率(一冊も本を読まない人の割合)」を取り上げている。

 本書いわく、若者の本離れが加速したのは1980年代から1990年代にかけてだった。しかし、2000年代に入ると、書籍の平均読書冊数や不読率がV字回復を遂げ、2010年代では、特に小学生の平均読書冊数が史上最高を更新したとある。

 様々な要因を本書では紹介しているが、一つ、強い説得力があったのは、学校での朝の読書(朝読)運動の広がりだ。2001年のOECD(経済協力開発機構)による15歳を対象とした学習到達度調査(PISA)で「趣味で読書することはない」と回答した日本の子どもが55%だったなどを理由に、小中高校で10分間程度自由に児童、生徒が本を読むという時間が推進され、みるみる実施校が増加した。

 ただ、V字回復を遂げているのは、書籍に限った話だ。かたや雑誌の平均読書冊数は減少傾向、不読率は上昇傾向に。書籍のみが政策的なテコ入れの恩恵を受けたとする主張も、気になる内容だった。

中高生から根強い人気の名著『人間失格』

 では、若者は何を読んでいるのか。太宰治の名著『人間失格』が、先の「学校読書調査」による2021年から2022年にかけての「読んだ本」の結果で上位に入っていたというのは、すでに“オッサン世代”である本稿の筆者にとって、意外だった。

 著者による中高生に好まれる理由の分析も面白い。そもそも、中高生に好まれる本には「型」が複数ある。『人間失格』が好まれるのは、その一つである「自意識+どんでん返し+真情爆発」に類似する要素が詰まっているからだという。

 端的な説明として「自意識+どんでん返し+真情爆発」の要素を盛り込んだ作品では、周囲に馴染めない主人公が登場。親友や恋人など特別な存在となる人物との出会いがありつつ、終盤に驚きの展開が待ち構えており、最後は主人公が相手へ情動を吐き出して、エモさが最大限に高まる。

『人間失格』が「自意識+どんでん返し+真情爆発」に類似、とされるのは、すべてが合致するわけではないから。とはいえ、近年では漫画やアニメで人気を博した『文豪ストレイドッグス』の余波もあり、評価が上がっているという。

 若者の“○○離れ”とは、ネガティブな文脈で使われる機会が多い印象だ。その一つにある本離れに対して、1982年生まれの著者がまっこうから向き合っているという驚きも、特筆すべきことだろう。実態とイメージは必ずしも一致しない。本離れを通して、社会を冷静に見るきっかけを与えてくれるのも、本書の魅力であろう。

文=カネコシュウヘイ

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