会社同士の利権交渉は「殺し合い」さながらの喧嘩で決着? ダメリーマンが任命されたのはそんな喧嘩用の男の世話係で…

マンガ

公開日:2024/3/22

ケンガンアシュラ
ケンガンアシュラ』(サンドロビッチ・ヤバ子:原作、だろめおん:作画/小学館)

 企業にとってプロジェクトの主導権を握れるかどうかは、業績にかかわる大きなポイントだ。ときには巨額の利益をかけて競合他社と水面下で争うことだってある。争いを終着させる方法は「交渉」が一般的だが、『ケンガンアシュラ』(サンドロビッチ・ヤバ子:原作、だろめおん:作画/小学館)の世界では、お互いの会社で雇った喧嘩好きな猛者を戦わせ、勝者の企業が利権を独占する「拳願仕合」がまかり通ってしまっている……。そんな危なっかしい争いに巻き込まれるのが、本作のヒロイン(?)・山下一夫だ。

 出版会社に勤めて34年。これまでこれといった業績をあげることはなかった主人公は、私生活でも奥さんに出ていかれ、2人の息子は引きこもり&ヤンキーになってしまった状態。

 そんな彼はある日、路地裏で2人の男の喧嘩を目撃してしまう。ワイドショーや特番で見るような些細な小競り合いではなく「殺し合い」という言葉が似合うほどの迫力…。圧倒される山下だったが、翌日、会長室に呼び出されたときに昨日の殴り合いを制した男・十鬼蛇王馬(トキタオウマ)と遭遇する。会長曰く、山下が働く会社ではビジネスの利権を「拳願仕合」と呼ばれる代理戦闘で争い、トキタはそれを担ってくれる存在とのこと。山下が会長に呼ばれたのは、トキタの世話係に任命するためであった。突然の出来事に頭の整理が追い付かない山下だったが、2人がビジネスパートナーとしてタッグを組むことは決定事項だという。こうして自称ダメな山下と常識では測れないトキタという凸凹コンビが誕生する。

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 1巻では、なぜこの2人がコンビを組まされたのかは明らかになっていないし、会長も「ん~…適当かな♪」と詳細を濁す。きっとこの先2人が組まれた理由が明らかになっていくのだろうが、読み始めの時点では想像がつかない。

 本作の魅力は、何と言っても格闘シーンの見やすさと戦況のわかりやすさだ。格闘系マンガの中には「いま戦いがどうなっているのか追い付けない……」と感じ、何度も同じページを読み返さないといけないこともあるが、本作にはそれがない。格闘描写と観に来る人たちからの説明が丁寧であるため、状況がスムーズに頭へと入ってくる。きっと格闘マンガに慣れていない人でも楽しめるはずだ。

 また1巻からの伏線にも注目したい。前述したように、なぜ会長は山下に世話係を任命した理由を濁しているのか。そもそもなぜトキタは雇われの身として数多の猛者と戦おうとするのか。また1巻の終盤で彼はライバル会社が雇った猛者の攻略法を瞬時に見つけ、反撃の狼煙を上げるのだが、彼が持つ底知れない強さはどこで手に入れたものなのか……。それらが徐々に明らかになったとき、物語はより深みを増して面白くなると確信している。格闘マンガ好きにはたまらない作品といえるだろう。

文=トヤカン

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