「姫、領地の視察ですか?」隙あらば貴族ごっこ!? 天然すぎ&心根が気高すぎるお母さんとの日常を描いた『プリンセスお母さん』

マンガ

公開日:2024/3/26

プリンセスお母さん

 はじめて読んだときは、こんなホームコメディそのものの家族が実在するのかと驚いた。『プリンセスお母さん』(KADOKAWA)は、著者である並庭マチコさんの天然すぎる&心根が気高すぎるお母さん(以下、ママ子さん)をめぐるコミックエッセイ。爆笑必至の煽り文句にたがわぬ、ぶっとんだ家族の日常が毎ページ、隙間なく描かれていく。


advertisement

 パート先で姫と呼ばれていたり、オーストリアを祖国と称したり、脳内でひとり国連・WHOを開催して、世のため・民のために日々頭を悩ませていたり、みずから王族のごときふるまいをするママ子さん。それだけならまだしも、娘が出かけようとすると「姫、領地の視察ですか?」と声をかけ、ただ声をかけるだけなのに不思議な踊りと歌で迫ってくるなど、周囲の人間を自分のペースに勢いよく巻き込んでいくのだ。

プリンセスお母さん

プリンセスお母さん

 家の外ではおとなしくしているつもりのママ子さんだが、何一つ隠しきれていないだろうことは、コロナで陽性反応が出たと申告したとき、職場の人たちが「妖精反応」と勘違いしたことからも察せられ、エピソードの一つひとつに爆笑しながら、ああ、中高時代にこういう本気の天然で愛されている子がいたなあ……と思い出したりもした。すでにアラカン(アラウンド還暦)なのに、少女のようなメンタリティを失わず、誰のことも否定しない彼女を見ていると自分もこんなふうにあれたら、と羨ましくもなってしまう。

プリンセスお母さん

 もともとSNSの投稿マンガで話題を呼んでいた作品だから、読んだことはあるけど単行本を手にとったことはない、という人も多いだろう。そういう人にもぜひ、本書を手にとっていただきたい。ママ子さんの実父はかなりのモラハラで、食事中に水を飲んだら怒られ、実母の実家に帰ることを禁じられるなど、かなり暴力的に支配されてきたことが1巻で明かされる。抑圧される苦しみを知っているからこそ、ママ子さんは誰かを否定することもなければ、愛することに惜しみない。ビートルズに心を打ち抜かれたのも、彼らが決して自虐や自棄をせずに自由を歌うからなのだと知って、なんだか胸が熱くなった。

 貴族ごっこやおふざけは、不条理でも生きていかねばならないなかでの処世術なのかもしれないと、1巻でママ子さん直筆のコメントにもある。生来の明るさは多分に影響しているとはいえ、ただポジティブなだけでない、まわりを自然と元気づけるママ子さんの輝きは、痛みを知っているからこそなのだな、とも思う。こらえきれない笑いの合間に、そんなママ子さんの哲学に触れられるのも本シリーズの魅力だ。

 なお、ママ子さんほどでなくとも、マチコさんのご家族はみんな、マチコさん自身もふくめてちょっと変わっているし、なかなか自由奔放である。それは、生来の性格以上に、そういう自分を受け止めてくれる絶対的な居場所がある、という安心感があるからこそなのだろうと思うと、やっぱり、かなり、羨ましい。

文=立花もも

あわせて読みたい