「自分の子どもは当たり前に無事生まれてくると思い込んでいました」産科のリアルを描いた『コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡』

マンガ

公開日:2024/3/20

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

 超高齢化社会を迎える中、いままで以上に求められるエッセンシャルワーカー。中でも身体や精神などさまざまな面から人を看ることで活躍の場が多いのが看護師だろう。わたしたちも、入院を伴うようなときはもちろん、自分のこと、子どものこと、家族のことなどで必ずお世話になっているはず。身近で頼れる大きな存在であり、命の現場で活躍するそんな看護師たちの中でも、命の誕生に立ち会う産科ナースを描いたのが『コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡』(にわみちよ/竹書房)。産科ナースが描く本作は、幸せに満ち溢れたイメージの産科をもっと深く知ることができる医療エッセイ漫画だ。


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コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

 外科の看護師として3年目、やりがいを感じながら働いていたみちよは、ある日産科への異動を命じられる。産科と言えば、命の誕生に立ち会い新生児たちに囲まれて幸せいっぱいだろうと思っていたが、喜びだけではない現実を目の当たりにし、自分の甘さを思い知らされることになる。

 妊娠・出産経験者であれば産科のイメージもつくが、男性にとってそこは未知なる世界だ。そして妊娠・出産を経験した女性であっても、お産は十人十色と言われるように自分が経験していないことは少なくないだろう。本作は、そんな知られざる産科の知られざる物語があますことなく描かれている。

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

 出産時の痛みに耐えかねた妊婦に、腕を握りしめられ、爪が刺さって傷だらけになってしまったというエピソードは、筆者が出産時に担当してくれた看護師が夫よりもずっと頼りになったことを思い出さずにはいられなかった。
 ほかにも、多くの誕生に立ち会っているタフで頼れる彼女たちの「大切なのは産み方よりも育て方だよ!」という言葉には説得力と優しさが詰まっていた。

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

 切迫早産と妊娠高血圧症候群からの急展開に「自分の子どもは当たり前に無事生まれてくると思い込んでいました」そう話す妊婦。切迫早産も妊娠高血圧症候群も妊婦なら誰しもが体験するかもしれないこと。

「みんなそれでも普通に産んでるから自分も大丈夫」というポジティブな思い込みは自分自身を励ましてもくれるが、その言葉は決して万能ではないことを胸に、覚悟を持つ必要も時にはあるのだ。妊娠・出産はわからないことばかり。それなのに「大丈夫だろう」そう思っていたあの時の自分を思い出しヒヤリとする。

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

 奇跡という言葉は簡単に使うべきではないかもしれない。しかし妊娠・出産は当たり前ではなく、母子ともに無事であることは奇跡なのだと本作で気づかされる。

コウノトリのお手伝い 産科ナースが見た命の奇跡

「おめでとうございます」産声とともにその言葉が聞けること。どのお産もそうであればいいが、決してそうではないことを本作は教えてくれる。
 喜びだけでなく悲しみとも向き合わなければいけないことを知り成長していくみちよ。産科ナースとして見える世界は、どの妊婦もそれぞれで決して同じではない。そして女性にとって妊娠・出産がどれだけ命がけで大変であるかということを大切に伝えている本作だからこそ、女性だけでなく男性にも手にとってほしい。本作を多くの人が目にすることで、妊婦に優しい社会になってくれることを願う。

文=ネゴト/Ato Hiromi

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