世界注目 フランス発のバディ漫画!『大好きな妻だった』『BADDUCKS』著者・武田登竜門による骨太ファンタジー冒険譚『DOGA』

マンガ

PR公開日:2024/3/8

DOGA
DOGA』(武田登竜門/双葉社)

大好きな妻だった』『BADDUCKS』で人気をはくした武田登竜門さんによるマンガ『DOGA』は、砂漠にかこまれた街から海を目指して旅する骨太ファンタジーだ。そして今作はフランスの出版社Ki-oonが版権を持つ、Ki-oonのオリジナル作品である。

 Ki-oonはこれまでにも『虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT-』や『リバイアサン』など、高い画力と重厚な設定を持つ良質な作品をいくつも送りだしてきた。その磨きあげられた審美眼にかなった今作もフランスでの刊行を前提に制作され、世界的な人気を獲得するための道筋をかねそなえたワールドワイドな作品といっていいだろう。

 北の大陸ソテルナの領主ヨーテは、自由都市レウールに来訪した際に暴漢におそわれ瀕死の重傷を負う。危うく命を救われるが、その代償として感覚のない機械の体をあてがわれてしまう。寿命も限られており長くとも2年が限度。紹介された道案内役の女性ドガとともに、人間の体をとりもどし本物の自由を手に入れるため、生きかえりの鍵があるという「海」に向かうのだった。

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 今作の魅力は表だけでなく裏側も緻密に組みあげられた世界感と、まったく違う出自を持つがゆえに相反する主人公たちふたりの人間味あふれるキャラクターにある。

 ドガの住むレウールは砂漠に囲まれ、暑さで日中はまともに屋外を歩くことさえかなわない。まともにお金をかせぐ手段は、街の中心にある世界遺産の巨石にまつわる観光収入くらい。観光客の落とすお金をあてにし、毎夜、お祭り騒ぎが行われる。しかしドガもそうであるように、多くの人が仕事にありつけず貧困にあえいでいる。

 そして街には裏の顔がある。実は街の地下はさながら採掘場のようになっているのだ。掘りだされているのは巨石と同じ材質の石。外国の商人がその石を買ってくれるため、貧困にあえぐ人々が地下を掘りつづけた結果そうなってしまったのだ。

 もちろん表立って世界遺産の石を削るわけにはいかない。日が落ちてから、こっそりと採掘をはじめ、地上ではお祭り騒ぎでにぎわいを演出し、地下の採掘音をカモフラージュする。頻繁にくずれる採掘場ではこれまでに何人も犠牲になっているが、生きることに必死な街の人々はもはや気にもとめないし、採掘をやめることもない。

 そんな表裏のある設定からは街のかかえる抑圧された状態がありありと見てとれる。それがそのままドガの鬱屈とした心境ともリンクしてくる。表側だけでなく、裏側までも緻密に作りこまれた世界感が、物語と、そこに生きるキャラクターに強い説得力を与えているのだ。

 砂漠に囲まれたこの街から抜けだしたいドガと、人間に戻るために海を目指したいヨーテのふたりは利害が一致し、行動を共にする。しかし家も家族もなく、歯も磨かず、生きるために日銭を稼ぐことに必死なドガに対して、ヨーテの生い立ちはまったく違う。領主の家に生まれ、幼いころから豪奢な家に住み、飢えることも、金銭的な不自由にも縁のない人生を送ってきたのだ。実際のところヨーテには自分の意志で何かを選択する権利を与えられておらず、それが自由への強い渇望となり、この旅の大きな動機につながっているが、そんなことをドガが知るよしもない。

 両者の「この街から出たい」という動機は一緒であるものの、バディというにはあまりにも隔たりが大きすぎるふたり。正直、かなり危うい関係性だ。価値観がぶつかりあうこともあるだろう。いつ破綻してもおかしくないのではないか。そんなふたりがともに旅をしているからこそ、そこにハラハラした緊迫感が生まれ、道中から目を離すことができない強い求心力となっているのだ。

 重厚で緻密な世界設定に、凸凹したキャラクターによるバディ。海を目指す旅を続けていくなかで、場面がかわるごとに新たな世界が垣間見られることも魅力のひとつ。恐ろしい怪物が登場するアクションファンタジーとして楽しむもよし。ふたりのキャラクターがいかにして打ち解けていくのか、それとも最後まで打ち解けないのか。そんな部分に注目するのもよし。さまざまな楽しみ方を提供してくれる作品だ。世界が注目するこの作品をぜひ堪能してほしい。

執筆:ネゴト / たけのこ

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