裏メニューとしてパスタをお客さんに勧める理由は? ひとりで切り盛りする人気飲食店の無駄を省いた仕込み術に迫る

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/22

ワンオペ店の仕込み術
ワンオペ店の仕込み術』(柴田書店:編/柴田書店)

 X(旧ツイッター)で話題になった『ワンオペ店の仕込み術』(柴田書店:編/柴田書店)。ここでのワンオペ店とは、その名の通り、一人で切り盛りする飲食店のことを指す。多彩なメニューを出す人気店がどうやってワンオペをしているのか。冷凍保存や真空包装、メニュー構成、段取り、常備アイテムにスポットを当てて紹介している。

仕込みや準備が明暗を分ける!人気ワンオペ店の秘密がぎっしり

 柴田書店は「専門料理」という専門誌を出版する、料理の専門出版社である。だから内容はかなり専門的で、むしろ料理本でもない。蔵前、外苑前、横浜などの中華やイタリアン、さまざまなジャンルのワンオペ店主の、一日のスケジュール、仕込みの秘密、メニューへの工夫などがカラー写真とともにたっぷり紹介されている。飲食店の裏側は、あまり見る機会がないもので、素人が読んでも面白い。

 店主の作業工程は細分化され、無駄のないように整えられて、そのシステマティックぶりには驚く。どの店にも共通する重要な工程は仕込み。仕込みでほとんどが決まると言ってもいいようだ。またメニューにもひと工夫を施し、自分がオペレーションしやすい料理を客が選ぶように、さりげなく誘導することも時にはあるようだった。

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 あるお店では、裏メニューとしてパスタをすすめることがあるそうだ。時には「同じ釜の飯」のように、店内の客それぞれが連鎖反応的にパスタを味わうこともあるとか。それはそこだけの特別な経験になるし、その日使いたい食材を使ったパスタにすることで、食材ロスも同時に叶えているのだ。

真似できそうなものを盗むのも本の醍醐味

 仕込みを活用して作られる、その店の料理がそれぞれのページで紹介されている。どれも美味しそうだが、レシピブックのように、細かい作業工程が紹介されているわけではない。なので、真似をするのは難しそうだが、使っている材料、ざっくりした手順を知るだけでも勉強になる。

 

また、

・2~3日後の作業を考えて段取りを組み、毎日の仕事量をフラットにする
・1週間で使い切る量を意識し、常に最高の状態で提供する

 といった工夫は、日々の料理や仕事にも活かせそうだ。参考になる部分と、単純に楽しむ部分を分けて読み進めるのも本書の醍醐味のひとつだろう。

夜に読むとお腹がすく本

 前述のようにレシピ本ではないのだが、どうにも夜に読むとお腹がすいてきてしまう。

 私たちは、ご飯を外で食べることを、「大切な経験」だと捉えている。もちろん美味しさ、店の雰囲気、手際の良さ、店員の感じの良さなども、外食の値段などには含まれる。それら全てをワンオペ店は一人でこなさなければならない。特にここ数年はコロナ禍で外食業界は多大なるダメージを受けた。それでも飲食と向き合おう、美味しいものを提供しようと頑張る人々の覚悟も感じた。とにかく、紹介されているお店に行ってみたくなる。そういった意味でも名著である。

文=宇野なおみ

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