保険金殺人事件でも使用された植物「トリカブト」の毒。植物学者8名が徹底解説する身近な植物のすごい戦略

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/28

ヤマケイ文庫 植物のプロが伝える おもしろくてためになる植物観察の事典
ヤマケイ文庫 植物のプロが伝える おもしろくてためになる植物観察の事典』(大場秀章/山と渓谷社)

「日本だけでも、野生する植物(維管束植物)の数は8千種を超す。世界、つまり地球上には、およそ27万種の植物が生息しているのだ。」これだけ多くの植物と共に我々は生活している。彼らはどうやって生き、いのちを繋いでいるのだろうか。

ヤマケイ文庫 植物のプロが伝える おもしろくてためになる植物観察の事典』(大場秀章/山と渓谷社)は、2001年に発行された『おもしろくてためになる植物の雑学事典』を加筆修正したもの。国立科学博物館をはじめ名だたる博物館で勤務・研究を行うプロが、全6章83編にわたって植物の知られざる姿をレクチャーする。植物好き必携の1冊だ。

 それでは、興味深い植物たちの例をいくつかみてみよう。

advertisement

交尾相手は花!?「花が昆虫の雌のかたちに擬態する」

 花と虫の関係は切っても切れないものがある。花は虫に花粉を媒介してもらいたいし、虫は花の蜜を求めてやってくる。一方で、交尾の相手と虫に勘違いさせる花もあるそうだ。ランの1種は、雌にそっくりな花をつけ、雄をおびき寄せるフェロモンを出す。雄が雌のように見える花弁に抱きつくと、虫に雄しべをくっつける。花は、虫に花粉を運ばせるために姿かたちを変え、香りで虫を誘う。虫を勘違いさせてしまうほどにランは擬態の名手。人が見て美しいと思うランの姿は、虫を誘うための戦略のたまものだと考えると、見方が変わってしまいそうだ。

「動物に食べる気を失わせるために有毒成分を含む」

 毒を持つ植物があることを知る人は多いと思うが、なぜ毒をもつのだろうか。その理由についても教えてくれる。それは、移動できない植物が食べられないようにするための防御の1つなのだ。

 例えば、トリカブト。年代によってはトリカブト保険金殺人事件を思い出す人もいるだろう。花は青紫色で美しく、日本でも見られ、牧場では牛や馬が食べないために茂みが残ることもあるそうだ。私は普段山登りをするのが趣味だが、すぐ手が届く登山道にトリカブトが沢山咲いているのを知り、毒を持つ植物がこんなに近くに生えているのかと驚いた。人のすぐ近くにあるトリカブトだが、「トリカブトの毒は生物が有する毒の中でふぐに次ぐ猛毒と言われている」そうで、アイヌ民族がやじりに塗ってヒグマを倒していたほど。それほどの強い毒を持つのは、動物に食べられないための化学的防御の結果ということにトリカブトの本気を感じる。

 化学物質繋がりで、同じ植物にも容赦がない植物もいて驚かされる。クルミは、その木の下では植物の育ちが悪い。これには理由があり、クルミの根から化学物質を出し、他の植物の成長を妨げている。自分のまわりで他の植物が育つのをゆるさない強気なクルミの、生き残りをかけた防御もかなりなものだ。

 本書があれば、何のために植物はその姿かたちをしているのかが見えてくる。何となくその色でその花びらのかたちをしている、というわけではない。全てのことに理由があるのだ。普段目にする植物に対する理解が深まり、自分では移動できない植物のたくましさにすごいと驚かされるだろう。本書を読んでから、どこへ行っても植物を見るたびに気になって仕方がない……、今目の前にある植物にも何かおもしろい話が隠されているに違いないと。

文=山上乃々

あわせて読みたい