今月のプラチナ本 2011年6月号『未来ちゃん』 川島小鳥

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/4

未来ちゃん

ハード : 発売元 : ナナロク社
ジャンル: 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:川島小鳥 価格:2,160円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『未来ちゃん』

●あらすじ●

佐渡島に住むひとりの女の子“未来ちゃん”を、撮り続けた写真家・川島小鳥の最新写真集『未来ちゃん』。春夏秋冬の季節を通じて、“未来ちゃん”の日常と成長が垣間見られる一冊。1年前の2010年4月に東京都内のギャラリーで行われた写真展で注目を集め、会場で発売された500部の自主制作写真集『未来ちゃん』は即完売。その後、『BRUTUS』をはじめ多方面の雑誌で取り上げられ話題を集める。自主制作版とほぼ同時に制作されていた今回の写真集が今年3月に刊行。4月に東京・渋谷のパルコファクトリーで開催された写真展「未来ちゃん」も盛況を収める。ブックデザインは祖父江慎。

かわしま・ことり●1980年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、沼田元氣に師事。2011年3月、写真集『未来ちゃん』(ナナロク社)を刊行。同月、写真集『BABY BABY』(学研教育出版)を復刊。『未来ちゃん』で、平成23年度(第42回)講談社出版文化賞写真賞を受賞。写真展「未来ちゃん」の東京展が盛況のうちに終了し、5月10日?17日に大阪展(梅田・HEP HALL)を開催する。

『未来ちゃん』
ナナロク社 2100円
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

祝! 初の写真集でのプラチナ本!!

子どもは好きでも嫌いでもなかった。それはきっと自分が子どもだったからだと思う。それがあの震災で変化した。災害はまだ終息していなくて気を許すと沈みがちな気持ちになってしまうけど、子どもたちの姿に何度も助けられた。整然と全力で走って津波から逃げる子どもたち。被災地の卒業式で歯を食い縛って答辞を述べる男の子。彼らの映像を見ながら声を出して泣いた。この国はこれからたくさんの苦難を乗り越えなければいけない。それでも、だからこそ、負けずに立ち向かっていく子どもたちの姿に感極まったのだ。そして子どもはみな未来の塊なんだと思い知った。そんなとき、この写真集と出会った。写真は言葉ではないから、ただもう見てくださいとしか言えない。見ればわかってもらえるはず。写真集で初のプラチナ本に選ばれ、今号のひとめ惚れ大賞にも選ばれたわけが。–余談だが、見覚えのある目だなあと思っていたら、この子、蒼井優さんに似てる? あ、蒼井さんごめんなさい(汗)。

横里 隆 本誌ご隠居。編集長のバトンを関口に渡し、今や悠々自適なご隠居として本誌を温かい目で見守っています。って、ぜんぜん悠々自適じゃないんですけど……

食え! 笑え! 叫べ! 走れ!

この本の表紙を書店で見かけたとき、くらくらしたのを覚えている。「昔」の日本を思わせる写真、くっきりと太い「未来」、そして「小鳥」の文字。時間が飛ぶように流れ、未来へと軽やかに進んでいくイメージが脳内に湧き上がった。震災以来ちぢこまったままの脳みそが、確かに揺さぶられた。余震も原発事故もまだまだ落ち着かず、不安にかられて身をすくませているのは私だけではないだろう。しかし本書をひらくと、ガチガチにこわばってしまった心の奥底に、蘇るものがある。だから本書を何度でも見返したくなる。そこにあるのは、未来ちゃんのように無心にメシを食い、全身で笑い、涙と鼻水にまみれて泣き、当てもなく駆け出してはすっころんでいたころの衝動–〝生きる?という衝動に他ならないだろう。そんな最も原初的な衝動を見失い、恐怖心の中に閉じこもろうとするわれわれのケツを、この本は蹴り上げてくれる。食え! 笑え! 叫べ! 走れ!と。われわれはまだ、生きている。

関口靖彦 4月1日より本誌編集長。傑作にめぐり合ったときの、「この本、すごく面白いよ!」と言って歩きたい気持ちを忘れずに、編集していきたいと思います

子どもの神さまのような

これまでいろんな子どもの写真集を見てきたけれど、『未来ちゃん』ほど強いインパクトを受けたのは初めてだ。表紙を見てしまったら、手に取って捲らずにはいられない、捲ったが最後買わずにはいられない。ものすごい吸引力。笑顔よりも、何かを睨んだ顔、しかめっ面、鼻水にまみれた顔、何かをほおばった顔、泣きじゃくった顔……のほうに惹きつけられる。なぜだろう。未来ちゃんはやりたい放題で、たしなめる大人もいない(ドブに寝転がってる写真には笑った)。とにかく自由で無防備で、何ものにもとらわれない強さに満ち満ちている。それはどこか神々しくもあって、子どもの神さまのようだなと思った。雪の日にちゃんちゃんこを着て傘を持って樹の枝にちょこんと座った一枚なんか座敷童子みたいだ。草むらの中で鎌をもってニヤッと笑っている写真はかなり怖い。未来ちゃんはどんなふうに育っていくのか。人間になってしまうのか。小鳥さん、これからも未来ちゃんを撮り続けてください。

稲子美砂 もうすぐ免許の書き換えなのに、皮膚炎が悪化して、顔が真っ赤。いま写真、撮りたくない。校了が終わったら、とりあえず皮膚科に行きます

命のかたまり。その存在こそが希望

圧倒された。かつて写真家・荒木経惟の写真集『さっちん』で、昭和30年代の団地で遊ぶガキ大将に魅了されたが、それ以来の衝撃かも。私事だが、私の姉が長女を産んだとき中学生だった私はうれしくてうれしくて毎日学校が終わると彼女のそばにいた。バラバラに過ごすようになっていた家族も集うようになり、みんながひとつになった。子どもの力ってすごい。そう思った。写真集『未来ちゃん』にもそんな力があると思う。何よりこの現代に〝未来ちゃん?がいてくれることが希望そのものだ。

服部美穂 東日本大震災 緊急スペシャル鼎談 連載第1回「原発と鎮魂」内田樹×名越康文×橋口いくよ、ぜひご覧ください!

天真爛漫すぎる!

これは昔の写真? よく見れば現代だとわかるけれど、未来ちゃんの生活は古臭いとかレトロといった次元ではなく、日本人の心にある原風景が映しだされている。ただ、それよりも彼女の奔放な佇まいに目を奪われる。夢中でページをめくっていると、改めてその表情に驚いた。カメラを向けると得意の顔やポーズをとり、過剰な反応を示す子供が多いけれど、未来ちゃんにはそれがない。睨みつけるし鼻水も垂らす。この逸材を、一年かけて撮影した川島氏は凄い。いますぐ未来ちゃんに会いたい!

似田貝大介 『深泥丘奇談・続』綾辻行人サイン会にお越しいただいた皆様に大感謝。歪んだ京都のアンバランスゾーンをご賞味あれ

未来ちゃんが見つめるもの

おかっぱ頭の小さな未来ちゃんは、まっすぐに何かを見つめている。それは、サボテンのとげとげだったり、お祭りおじさんの背中だったり、雪のうえに寝転んで見あげた空だったり。泣いたり、笑ったり、何かを考えこんだり、とにかく忙しそうだ。なぜならきっと、未来ちゃんはいつも一生懸命だから。かつて〝未来ちゃん?だった私たちは、そんな彼女に元気をもらう。日々の慈しみを思い出させてくれた未来ちゃんと、未来ちゃんのいる世界を覗かせてくれた川島小鳥さんへ、ありがとう。

重信裕加 岡部えつさんの新刊『新宿遊女奇譚』が文庫ダ・ヴィンチより刊行。解説を、盛田隆二さんに書いていただきました!

生命力のかたまり、未来ちゃん

元気が服を着て写っている。特に、なにかを食べているときの表情がすごい。食べ物に宿る力を100%取り込むように食べている。圧巻。そして、真っ赤なほっぺ、かわいらしい着物、板の間に障子……。昭和初期にタイムスリップしたかのようなディテールが、田舎のたくましさを感じさせてくれる。私が子どもの頃、祖母の家はこんな感じだった。稲刈りについていった写真が残っている。当時の記憶はないけれど、なぜかそのときの活気を思い出すのだ。本書にも同様の活気を感じる。

鎌野静華 『なんだ礼央化』が文庫に! 鴻上尚史さんと西川貴教さんからオビコメントをいただきました。ありがとうございました!

全ての未来ちゃんに幸あれ

見れば見るほど、幸せになってほしいな?と強く思う。決定的一瞬を多数とらえた川島小鳥さんのすごさ。生命力のかたまりのような未来ちゃんが愛しくてたまらない。未来ちゃんはたぶんまだ、世界を疑うことなんか知らなくて、ただまっすぐ生きている。世界をありのまま受け入れるから、世界にそのまま受け入れられている。だから元気をもらえるし、ほっとするんじゃないかな。この未来ちゃん、全ての子どもたち、子どもたちに限らない全ての未来ちゃんが、祝福される存在でありますように。

岩橋真実 『未来ちゃん』は今月の「ひとめ惚れ大賞」にも選ばれています! 本誌192Pの川島さんインタビューもぜひご覧ください

くるくる変わる表情が可愛すぎる!

食べるのも泣くのも、これでもか!というほど、生命力むき出しの未来ちゃんに、圧倒される。大きな口を開けて、大地のパワーを吸い続ける怪獣のよう。カメラで撮られていることなんて全く気にせず、春夏秋冬をめいっぱい一生懸命に生きる未来ちゃんの前では、少しのごまかしもきかなそうだ。未来ちゃんは、どこにいたって未来ちゃんであり続ける。はて、私はどの場所にたっても私であり続けているだろうか。未来ちゃんの大きな瞳に見つめられて、あとじさりしてしまった。

千葉美如 京都のバーで、酒場ライター・バッキー井上さんと偶然、隣席に。おかげで美味しいホットウィスキーに出会えました

私のなかにもいる未来ちゃん

過去を思い出すことはときに愉しく、ときにせつないが、過去を懐かしむという行為それ自体を久しくしていなかった自分に気付いたとき、身に降り注ぐのは筆舌に尽くし難い喪失感であると私は思う。本書で切り取られている数々の風景には〝幼少時代のイデア?というべきものが凝縮されているのではないか。主な舞台となっている佐渡島の季節の移り変わりや、未来ちゃんの頬の赤み、写真に写り込んだ調度品の数々に私は、自らの幼い頃の思い出を重ね合わせ、反芻してしまったのである。

川戸崇央 今月からダ・ヴィンチ編集部に。異動といえばデスク掃除ですが、これが色々と出てきます。未精算の領収書とかね……泣

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