日本最南端の空港の日常を描くマンガ。「どのシーンを切り取っても絵になる」ほど、風景や描き込みの小物までが美しい『空は世界のひとつ屋根』

マンガ

PR公開日:2024/3/29

空は世界のひとつ屋根
空は世界のひとつ屋根』(鶴田謙二/白泉社)

 本作を一言で言い表すならば「どのシーンを切り取っても絵になる漫画」。1ページ、いや1コマ1コマが異国の風景写真のような美しさで、思わず見惚れてしまう。『空は世界のひとつ屋根』(鶴田謙二/白泉社)をめくると、そんな“美しい”瞬間が溢れ出す。

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空は世界のひとつ屋根

 物語の舞台は、日本最南端に位置する「奥ノ鳥島」。豊かな海と自然に恵まれ、かつては捕鯨で栄えたものの、現在では日本からの直通便もない孤島と化している。この島の入り口である「奥ノ鳥島空港」で、空港長兼オーナーを務めるのが本作の主人公・神鳥葉桜(しとどは・せれっそ)だ。

“さくら”ではなくスペイン語で“セレッソ”と読み、ヘルシーなサーフ系スタイルにベリーショートがアイコニックな彼女。先々代の神鳥葉当主が開いた空港を孫である彼女が継いでいるという設定だが、代々続く名家のお嬢様という雰囲気は一切ない。それどころか、失恋の度に旅へ出たり、空港の運営のために軽快に駆け巡ったり、公私ともに感情豊かかつ、アクティブなキャラクター。桜という名前だけれど、どちらかといえば向日葵という名が似合うほどエネルギッシュで眩しい。

空は世界のひとつ屋根

『空は世界のひとつ屋根』では、そんな桜と空港に赴任してきたばかりの新人の日常を描く。ブルーとオレンジが混ざり合う夕焼けをバックに管制塔を直したり、まるで夜空が海に溶け込んだかのように藍色に包まれる空間で歓迎会を開いたり……。劇的な事件は起きないけれど、移りゆく空の表情を背に桜が繰り広げる日常は、思わずうっとりするような美しさに満ちている。そんな本作を読んでいると、空はいつだって私たちの頭の上に広がっているけど、昨日や今日と全く同じ空である日は一度もないのだと。当たり前にして、つい見逃してしまう日常の美しさに目を留めたくなる。

空は世界のひとつ屋根

空は世界のひとつ屋根

 また、桜が身につけている通信機器や空港長室に置かれている私物、仕事道具などの描き込みも細かい。布団の近くに置かれているゲーム機、まるで武器のように身体に装備しているトランシーバーやヘッドフォン……目を凝らしてそれらを見つめると、なんだかこの世界の奥行きを感じられて、本当に存在する遠い島の日々を覗き見しているような気分になる。

空は世界のひとつ屋根

『空は世界のひとつ屋根』は、「楽園」本誌&web増刊で不定期更新中だが、1巻を読み終わった今では、この更新スタイルもなんだか桜からの手紙、いや“報告書”を待っているようで、どこかノスタルジックでロマンを感じる。また、1巻に収録されている「桜大空港」という章では、鶴田謙二先生の代表作である『冒険エレキテ島』でお馴染みの“彼女”の姿も……。愛読者は今後の展開に、想像と期待で胸が膨らむはず。

 季節の移ろいを全身で感じる今、『空は世界のひとつ屋根』を読んでその世界に浸って、そしてゆっくりと空を見上げてみてはいかがだろうか。

©鶴田謙二/「楽園」/白泉社
文=ちゃんめい

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