2010年02月号 『DINER』平山夢明

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/5

ダイナー (ポプラ文庫)

ハード : 発売元 : ポプラ社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:平山夢明 価格:799円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『DINER(ダイナー)』

平山 夢明

●あらすじ●

出来心から携帯闇サイトのバイトに手を出したオオバカナコは、トラブルに巻き込まれ凄惨な拷問に遭遇したあげくに殺されそうになる。危うく埋められる寸前で、彼女は思わず叫んでいた──「わたし、料理が得意なんです!」。気がつくと、そこは頑丈な扉に守られた、会員制のダイナー「キャンティーン」だった。店長のボンベロは言う「ここは殺し屋専用の定食屋(ダイナー)だ」。使い捨てのウェイトレスとして売られたカナコ。「使えない」と判断されれば即、死が待っている。凶悪な客が次々と訪れる極限的な日々に添えられるのは、ボンベロ──彼もまた元殺し屋──の天才的料理。“オオバカナコ”は必死で智恵をしぼり、何度も死にそうになりながら日々を過ごしていく……。愛と残酷の同居をグルメ描写が彩る、著者9年ぶりの長編小説。

ひらやま・ゆめあき●1961年、神奈川県生まれ。2006年、「独白するユニバーサル横メルカトル」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞、同作収録の短編集は『このミステリーがすごい!』第1位となる。ほか著書に「「超」怖い話」シリーズ、『ミサイルマン』『他人事』『顳顬草紙』など。

『DINER』
ポプラ社 1575円
写真=川口宗道
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編集部寸評

圧倒的な原案力と凄まじい展開

これぞ原案力!“殺し屋たちだけが食べにくる秘密の食堂で働かされることになったら?”という設定はあまりに見事。それだけでもうこの作品は勝っている。殺し屋と食堂というギャップのある掛け合わせが巧みなのだが、ふと思う。そもそも食べるという行為は、生物の命を摘み取って切り刻んで体内に入れること。そしてグルメというのはそれを快楽として堪能すること。まさに殺し屋たちに相応しい生と死の現場なのだ。ゆえに奇抜な設定ながらも違和感はなく、読む者はその世界に没入していく。加えて展開も凄まじい。怖ろし過ぎて可笑しくて、苦し過ぎて心地いい。感覚が振り回されるほど異常な世界に眩暈する。傑作グルメ小説であり、同時に傑作ノワール小説なのだ。こんな小説読んだことない。やっぱり平山夢明は天才だった。

横里 隆 本誌編集長。あけましておめでとうございます。先の見えない一年の始めに、ぜひ巻頭特集を。不安を乗り切るために

極限状態の中の乾いたラブコメ

プラチナ本『独白するユニバーサル横メルカトル』で平山さんの容赦ない残酷表現の美しさを十分堪能し、覚悟して『ダイナー』に臨んだが、読後感はかなり違った。殺し屋のための定食屋が舞台ということで人は殺されまくるし、暴力描写の凄まじさは相変わらず(映像化したらきっと直視できない)なのだが、冷徹で非道な天才的な料理人&愛犬家のボンベロやドンくさいけれど機転が利いて悪運の強いカナコを筆頭に、スキンやキッドなど壊れた殺し屋たちのキャラクターもすばらしく、恋愛テイストも満載な極上のエンターテインメントといった印象。ボンベロに萌える女子も多いと思う。彼のつくる芸術的なハンバーガーやスイーツはぜひ賞味したいが、死体の横で味わうのだけはちょっと……まあ目をつぶって食べればいいのだけれど。

稲子美砂 文庫『文豪さんへ。』が発売に。人気作家の方々が近代文学をモチーフに短編を書き下ろした素敵なアンソロジーです

極限状態のエンターテインメント

待ってました、長編! 痛いし汚いし、ひりひりするけれど、一気読みでぶっ飛び間違いなし。でも、この表面を覆う残虐さにだまされてはいけない。平山夢明が描く登場人物たちの、生きるか死ぬかという極限状態の中で浮かび上がる人間の本性の多様さを心して(楽しんで)読め!と私は言いたい。主役級のオオバカナコは混乱しながらも頭が良くて、コミュニケーション能力や学習能力が高いので、物語がどんどん展開して痛快で、ユーモアさえ感じられる。ダイナーにやってくる客どもの壊れ感も、会ったことがないはずの人種なのに、手に取るようにキッドやスキンが抱えた心の闇に同化できる。またそれらをすべて受け入れるボンベロって、いい男〜っ。裏社会の専門用語も学べるし、こんな小説、ほかにない!

岸本亜紀 恩田陸『私の家では何も起こらない』1月8日発売です。大田垣晴子『ことことわざおのことわざ劇場』絶賛発売中

“こんな人生”を忘れさせるメシ

激しいバイオレンスとヒネリの利いたウィットの連続。だが本作は、単なる“面白い話”ではない。読む者の胸に積もっていくのは、怪物たちの哀しみだ。切り刻むことでしか人肌の温もりに触れられない、つらい人生を終わらせてあげることでしか女を可愛がれない、暴力でしか誰かの役に立てない。そのように生まれた者たちが、それでも生きていくには、“こんな人生”を直視しないように自我を閉ざすしかない。それはしかし、群れを成す動物である人間には過酷な生き方であるにちがいなく、ほんの一瞬でも人とつながるために、彼らのダイナーはある。うまいメシにかじりつく一瞬、“こんな人生”を忘れられる恍惚。彼らほどキツくはないにせよ、やはり“こんな人生”しか持っていないわれわれ読者にとっても、その一瞬は福音となる。

関口靖彦 忘我の恍惚は、やっぱり野菜や魚ではなく、うまい肉にある気がする。それとその日の、一口目のビール!

生きたいと願うこと。

出会いがしらの恋、というのに憧れる。生きるか死ぬかの境界線上で出会い、殺し屋たちの攻撃に、機転と運とふたりの生まれかけの愛で立ち向かう。やっつけてもやっつけてももっとやっかいな殺し屋があらわれるけど、大丈夫。彼だけじゃなくて、わたしも強くなってるのだから、生きたいと強く思ってるのだから。そして超大ピンチのあとの、最後は絶対ハッピイエンドがいい。だから、ボンベロは来る、とわたしも思う。

飯田久美子 山崎ナオコーラさんの『この世は二人組ではできあがらない』が、すごくよくて泣きました。90年代ッコはぜひ!

ああハンバーガーが食べたい!

平山作品といえば、狂気や恐怖を生々しく描く作品で知られるので、特に女性の中には敬遠していた方もいるのではないだろうか。だが本書は、そんな食わず嫌いのあなたにこそ読んでほしい! 若さを無駄に消費していたカナコが、命がけでダイナーのウェイトレスとして働くようになり、めきめきと逞しくなっていく様が非常に小気味よく、最後まで飽きることなく一気読み。読後爽快感の残るエンターテインメント小説だ。

服部美穂 クルール,サヴール,リーヴルで取材した清川あさみさんのご自宅はとても素敵でした! 私は部屋の片付けからだな……

装丁からして腹がへる!

極上の挽き肉から溢れる肉汁が鉄板で焼かれる音とにおい、その一方で、考えうる限り最悪な方法の拷問によって迸る血、叫び声、屍臭。本品において両者の価値はさほど変らないもののように描かれる。スリルと恐怖に加えて空腹を感じながらページをめくるのだ。ヘマをすれば即、死に繋がる殺し屋家業さながらに、本来は相容れないものを豪快にして緻密な文章によって見事に融合させた。ああ、思い出しただけで腹がへる!

似田貝大介 第5回『幽』怪談文学賞&第2回『幽』怪談実話コンテストが募集開始。今年も怖くて面白い怪談をお待ちしています

彼女の賢さと生命力に感服

生きている実感もなく毎日をやり過ごして暮らしていたカナコが、闇サイトをきっかけに、一瞬にして死と隣りあわせの世界に巻き込まれる。冒頭の急激な展開から面白い。目を背けたくなるような残虐な拷問シーンもあるが、このダイナーの料理は本当にどれも美味しそうで、途中チーズバーガーを買いに走ったほど。死への緊張と恐怖、生きる欲求が交互に訪れ、最後は大満足。いま一番おすすめのエンターテインメント作品。

重信裕加 今月のエレクトロニック・アーツ『ダンテズ・インフェルノ』平山夢明さんインタビューもぜひチェックしてください!


最後まで減速しないスピード感

暴力描写の中にこっそり入り込んでいるロマンスに縋りながら、最後まで読んだ。なにより虫ケラ同然の立場にいたカナコの、下克上っぷりがすごい。非現実的な暴力の世界に身をおきながらも、彼女はダイナーにやってくる客に反発し、共感し、同情する。そしてボンベロの作るバーガーに舌鼓をうつ。彼女のおかれた状況はおよそ人間的ではないのに、彼女はずっと彼女のままで。どの殺し屋よりも強くある彼女に拍手!

鎌野静華 例年、年末年始は温泉へ行くのですがメンバーの一人が仕事ということで今年は家で“お取り寄せ”三昧。美味でした〜

「死にたくない」のループ

とにかく「死にたくない」の一心だったカナコが〈もう殺すのを躊躇しなくて良いよ〉とうなだれたあの瞬間。あれは確かに彼女のなにかが変わった瞬間だったけど、でも、感情のピークが過ぎればまた「死にたくない」に戻る。食堂は、どんな感情に支配されてもひとは、「死にたくない」に戻るしおなかもすくという象徴の気がした。だからきっと、凄惨な死体と同居してもなお、食の描写がなにより読者を刺激してそそるのだ。

野口桃子 『吉野北高校図書委員会3 トモダチと恋ゴコロ』が発売中。甘酸っぱすぎて何度も身悶え。プレゼント企画も実施中!


残酷描写に彩られた人間讃歌

凄惨な描写もたっぷり、殺し屋たちも外道な奴らばかりだけど、それでも描かれているのは人間讃歌だと思った。ボンヤリ流されず意志を持って生きること、それがもたらす強さ。時間的には短くても、それまでの人生の何倍もの密度の日々で彼女は大きく変わった。キッドもスキンも他の殺し屋も、その描き方に愛を感じる。久々にガツンとくる超弩級エンタメでした。あと、ボンベロのカナコへの最後の言葉が格好よすぎます。

岩橋真実 でもって人間讃歌といえばジョジョですね。ジョジョ好きにもおすすめだと思います。あーコミックス一気読みしたい!

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