2009年07月号 『レッドゾーン』(上・下) 真山仁

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/6

レッドゾーン(上)

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:真山仁 価格:1,836円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『レッドゾーン』(上・下)

真山 仁

●あらすじ●

日本最大の自動車メーカー・アカマに突然仕掛けられた、上海の若手投資家・賀一華による株式買収。「中国の買収王子」からのアプローチに戸惑うアカマ首脳陣は、“ハゲタカ”── 経営難企業を買収・再生することで利益を得る、破綻証券投資戦略をとるファンドや買収者のこと──の異名を持つ、投資ファンド社長・鷲津政彦に防衛策の教えを請う。そして、鷲津の元にも届けられていた、中国国営株式投資会社からの「一緒に日本を買い叩きませんか」のメッセージ。それらの背後にある中国の思惑とは? 「世界のアカマ」、「ハゲタカ」鷲津、また事業再生家の芝野と彼が支援する大阪の町工場、中国、そしてアメリカをも大きなうねりに巻き込んでいく巨大スケールの買収劇。6月6日より公開の映画『ハゲタカ』原作でもあるシリーズ第3弾。

まやま・じん●1962年、大阪府生まれ。新聞記者、フリーライター活動の後、2004年『ハゲタカ』でデビュー。同作と続編『バイアウト』(文庫化の際『ハゲタカ㈼』と改題)はNHKにてドラマ化され多数の賞を受賞した。 ほか作品に『ベイジン』など。

『レッドゾーン』(上・下)
講談社 各1785円
写真=川口宗道
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編集部寸評

迷いの時代に大いなる勇気を貰う

仕事のことで迷っていた。進むべき方向は? 力の入れどころは? そもそもダ・ヴィンチとは何なのか? 弊誌創刊15年にして深く迷っていた。そんな折、以前録画したドラマ版『ハゲタカ』を観た。苦しくて身悶えた。最後は涙が止まらなかった。いつのまにか迷いは晴れていた。ビジネス書や啓蒙書では伝わらない“経済の冷徹なシステム”と“その中で人として生きていく方法”を教わった気がした。ゆえに本書も夢中で読んだ。芝野の問いが刺さる。「会社は誰のものなんでしょうか」と。鷲津が畳みかける。「守るべきものはなんです。創業者ですか。創業者が従業員と共に血の滲む思いをして築き上げた魂じゃないんですか」と。何を知り、何を変え、何を守らねばならないのか、終始思いを巡らせながら読んだ。大きな勇気を貰った。

横里 隆 本誌編集長。『ハゲタカ』は小説もドラマもいい。双方の設定の違いを見つけるのも楽しい。映画も必ず観に行きたい!

小説ならではの深みと広がり

ドラマ版『ハゲタカ』も大好きだったし、映画も試写で観る機会に恵まれ、その世界観は自分の中にイメージとしてあった。しかし、『レッドゾーン』を読むことで、さらにそれは広がったように思う。買収劇に絡むさまざまな立場の人間の思惑が複雑に入り乱れ、彼らは場面場面でいろいろな問いを投げ掛けてくる。個性際立つ人物たちが多く、会話も非常に生々しいので、すぐにその場に引きずり込まれ、気がつくと自分も考えているのだ。アカマ自動車社長の古屋が、鷲津に問う。「ぜひ伺いたいですね。あなたが、けっして譲れないというものを」−買収のためには手段を選ばず、国ですら相手にするような男がビジネスにおいて譲れないものとは? 企業で仕事をしている人ならば、必ず琴線がビクンとふるえる刺激的な小説である。

稲子美砂 西原さんと高知・浦戸へ行って来ました。日曜市も初鰹もトマトも土佐人気質も満喫。地元の方々の多大なご協力に感謝

主人公の鷲津に励まされた

最初、あまりの知識のなさと興味関心の薄さから、経済小説というだけで、腰がひけて読み始めた。「リーマンショック」の意味すら、よくわかっていないのだ、私は。映像作品の『ハゲタカ』は知ってはいたものの、読むのは初めて。序盤は理解に専念し、緊張して読み進めたが、いつのまにやら前のめりで、濃〜いキャラやエンターテインメントに徹する著者の姿勢に夢中になった。日本最強の買収者、“ハゲタカ”の異名を持つ鷲津政彦は、一匹狼で日本の今に闇を感じている。う〜ん、ハードボイルドの傑作に勝るとも劣らず格好いい〜。自動車メーカーの赤字決算、世界的不況など、著者は先が“視え”ていたかのようなリアリティ。文中、鷲津に何度も励まされた。不況の今だからこそ、読んで勇気をもらえる人が多いのでは?

岸本亜紀 岡部えつ『枯骨の恋』、綾辻行人+牧野修『ナゴム、ホラーライフ』、勝山海百合『十七歳の湯夫人』、遠野りりこ『工場のガールズファイト』刊行

「経済」って一体何なのか

私にとって、「経済」ほど実感の伴わない言葉はない。毎日の新聞の見出しから不景気であることは伝わってくるが、そこに記載された数字の意味はまったく読み取れない。数字と、その横に添えられた会社名の関係もわからない。そんな状態で本書を読み始めたため、当初はなかなか先に進めなかった。だが鷲津をはじめ、登場人物たちの「顔」が見えてくるにつれ、ページを繰る速度は上がる一方。そうして伝わってきたのは、「会社」や「数字」は、人間のカタマリなんだということ。ひとりひとりの意志と行動、願い、怒り、喜び、それらが幾重にも折り重なって「経済」を動かしているという、ごく当たり前のことだった。だが「当たり前」を、お題目ではなく実感として獲得するというのは貴重な経験で、それこそが小説の力なのだと思う。

関口靖彦 いよいよビールのおいしい季節。自宅の瓶ビール専用冷蔵庫、設定温度をすこし下げました。コップはもちろん冷凍庫に!

峰不二子よりすごい鷲津の恋人

本筋とは外れるけど、わたしはリンがとっても好きでした。リンといるときの鷲津、リンと鷲津の関係性。リンは、鷲津と同じくらい仕事ができる一方で、キスもセックスもせがめばヤキモチも焼く。仕事でもプライベートでも50:50だけど、ライバルじゃなくて、互いの弱みも衒いなく見せ合い、話せる。全部うらやましい。リンとの関係にこそ、鷲津の等身大と日本人離れした魅力があらわれているので、ドラマ派もぜひ!

飯田久美子 山崎ナオコーラさん&荒井良二さんの『モサ』、19日発売! 21世紀のムーミンともいうべき、超キュートな本です

前2作未読の方も楽しめます!

いやー面白かった!! 専門用語が飛び交うが、魅力的なキャラが物語を引っ張ってくれるので気にならない。今の経済情勢も盛り込まれているため、きっとこの瞬間も世界のどこかでこんなスリリングな買収劇が繰り広げられているのだろうと思ったし、ニュースで聞きなれていた「ものづくり大国・日本」が、世界にどのように見られているのかも知った。これまでは苦手意識のあった経済ニュースに今はドラマを感じる。

服部美穂 イキウメの前川知大さん作・演出の舞台『関数ドミノ』を観にいきました。ものすごく面白くて猛烈に感動しました!

二の足を踏まないで欲しい

経済状況を知らせる新聞やニュースを、いつもどこか遠くの世界のことように傍観していた。だが本当は誰しも経済世界の真っ只中を生きているのだ。町工場の職人から世界を牛耳る怪物まで、あらゆる立場の人々が同じ土俵の上でしのぎを削っている。さまざまな視点で描かれる魅力溢れる登場人物たちの中には、私自身も存在していた。経済と世界事情について、これまでぼんやりとしていた視界が一気に晴れた気がする。

似田貝大介 小山内薫の初復刻小説『お岩』が刊行。『幽』11号は7月3日発売です。幽ブックスに怪談イベントなど盛りだくさん!

映画を見る前に、ぜひ!

経済に疎いせいか、専門用語にとまどいながら読み始めたのだが、物語が進みはじめるとあっという間、一気に読破してしまった。天才ファンドマネージャーの鷲津政彦、そして彼をとりまく登場人物も魅力的。実在の企業をモデルとしているのであろうエピソードも、すごく面白い。企業売買がテーマなので硬い小説かと思っていたら大間違い。ジェットコースター級のスリルも味わえ、経済の勉強にもなる一冊。映画も楽しみ。

重信裕加 「ジェットコースター」で始まる、たむらぱんのアルバム『ノウニウノウン』。最近はこればかり聴いてます。詳細は本誌P15!


“譲れないもの”を持つ強い男

とにかく鷲津が格好いい。大物たちとの息をのむ駆け引きのシーンはもちろんだが、彼が国家という巨大な壁に“絶望”を感じつつも、立ち向かう姿がクールなのだ。普通に生活をする中でさえ感じる社会への不条理や危機感。自分はその違和感を払拭するために行動を起こすだろうかと考えたとき、鷲津という男の強さを感じずにはいられない。現在の金融危機、鷲津ならどう料理するのだろうか。見てみたい。

鎌野静華 前作のドラマ『ハゲタカ』も好きでした。鷲津を演じた大森南朋さんは本当に格好よかった! 映画も楽しみです

読み進めるほどに、ハマる

学生時代、ビジネスは心理学や行動学なんだなと感じたことを思い出した。でもそれって当たり前だ。動かしているのは人間。思惑が交錯し、駆け引きがある中で、プライベートで恋もする。だからもし、TOBやファンドという単語で“ビジネス小説でしょ”と敬遠している人は、そんなもったいないことをせずにぜひ読み進めてほしい。これは男も女も関係ない、スリルとミステリーに満ちた爽快感あふれるドラマなのだから。

野口桃子 L 25モバイルで吉野万理子さん『はじまりはオトコトモダチ』の連載開始。毎週月〜金曜日更新。ぜひお楽しみください!


アカマのオヤジたちも素敵です

初めは買収など予想もしておらず“ありえんちゃ!”と狼狽するが、社長・古屋も社長室長・大内も、足りない知識を理解し補い、冷静に戦おうとする。賀との会談で、ボンボン・太一郎とは対照的に、複雑な心中を見せずあっぱれな対応をした古屋には、大内とともに喝采を送った。そして大内も懐刀としての態度・活躍がすばらしい。ラストの展開もあり、彼らのアカマ魂に惚れ惚れとした。こんな“タヌキオヤジ”たち、憧れます。

岩橋真実 学生時代からの友人たちと久々にグダグダ徹夜呑み。やっぱり大切な人たちだと感じました。皆、変わりつつも変わらない

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