寄せ集めチームで箱根駅伝に挑む青年達は何のために襷をつなげるのか。堂場瞬一が描く『チーム』

文芸・カルチャー

更新日:2025/1/13

チーム
チーム』(堂場瞬一/実業之日本社)

 城南大4年生の浦大地は、予選会で敗退し箱根駅伝出場のラストチャンスを逃す。『チーム』(堂場瞬一/実業之日本社)の物語は、そこから始まる。

 浦は去年、駅伝に出場したものの怪我が原因で失速し、順調だったチームを大敗北させてしまったトラウマを抱える。今年の予選会でのタイムは良かったのだが、他のチームメイトの走りが芳しくなく、本選への出場はならなかったのだ。去年のリベンジをしたかった浦は、究極の個人競技であり、同時にチーム競技でもある“箱根駅伝”の難しさを痛感する。

 しかし浦は「学連選抜」に選ばれ、駅伝に参加できることに。学連選抜は、大学チームとして出場できなかった選手の中で好タイムの個人が集められ、“寄せ集めのチーム”として駅伝に出場するという方法だ。

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 学連選抜によって集められたのは、個性派ばかり。お調子者で自分の限界を決めつけてしまっている門脇や、区間新を叩き出し続ける天才だが、トラブルメーカーの山城。優秀な選手を何人も輩出した育成者でありながら、何の不運か箱根駅伝への出場経験がないという、一癖あるベテラン監督の吉池。

 学連選抜のリーダーに任命された浦は、“優勝”という大きな目標を掲げ、チームをまとめあげるべく奮戦する。しかしその心中には、複雑な想いも抱えていた。

 これまでの4年間、苦楽を共にして来た大学の仲間と“チームでの優勝”を掲げてきたのだ。しかし、学連選抜は所詮寄せ集め。4年間の思い出があるチームメイトと、同じ絆が生まれるわけもない。浦にとって、去年自分のせいで敗けてしまった大学チームへの罪滅ぼしにもならない。

 では、なぜ自分は走るのか。自分のためか、チームのために走るのか。答えを出せないまま、いよいよ本番当日。浦は最後の区間を走るのだが――。

 本作は、マラソンや駅伝が好きな人はもちろん、これまであまり触れてこなかった方にも、ぜひ読んでほしい一冊だ。実は私は、マラソンや駅伝には全く興味がなかった。しかし、本作を読んだことで、見方が一変した。

 作中の描写に「このまま走り続けたら、心臓が爆発してしまう」「一歩踏み出す度に、針を一本刺されるような痛みが走る」といった文言が多く見受けられる。選手たちが恐怖や痛みを抱えながら走っている事実に驚かされた。

 さらに、心理的な葛藤も描かれる。近くに他のランナーの気配がすると、頭によぎるのは「追い抜かれてしまうのではないか」という不安。「ペースを上げるべきか」「いや、気にするべきじゃない」「後ろを振り向いて相手との距離を確かめたい」「だけど、それも体力の消耗につながる」……とさまざまな考えが巡る。

 私は本作を読むまで、そういったランナーの状況や感情を「なんとなく」しか分かっていなかった。だが、マラソン経験者でなければ、誰しもそうではないだろうか。本作は、その痛みや葛藤を如実に教えてくれる。まるで自分が駅伝を走っているかのような錯覚さえ、させてくれる。とてつもない没入感があるのだ。

 私はこの没入感こそ、小説を読む意味の一つだと思う。

 これからの人生、私が箱根駅伝に出ることは絶対になく、体力的に市民マラソンも向いていない。「チームのために走る」といった想いも、仲間との絆も、当然ない。しかし、この物語を通して、私は箱根駅伝を疑似体験している感覚になれる。「チーム競技とは何なのか」という難題も、浦を通して本気で考えたりもできるのだ。

 こういう体験をさせてくれる小説こそ、私は大勢の人にオススメしたい。本作は紛れもなくそういう一冊である。年始の駅伝が、今から楽しみだ。

文=雨野裾


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