読めば必ず再読したくなる! 朝井リョウに続く、小すば新人賞受賞作

小説・エッセイ

公開日:2013/7/6

名も無き世界のエンドロール

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:行成薫 価格:1,028円

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今や時の人、朝井リョウさんを輩出した小説すばる新人賞の最新受賞作が本作。いきなり電子書籍化(しかも紙より少しだけ安い!)してくれるという太っ腹。読み終わったいま、電子で買ったにもかかわらず、紙の書籍で買い直そうか非常に迷っている次第であります……。

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物語は男子高生2人が、ちょっと気取った会話をするところから始まり、テンポのいい冒頭ですぐに、マコトは屁理屈をこね、しかもドッキリ(断じて悪戯やサプライズではない)を仕掛けるお調子者で、「俺」はそんな彼に振り回されながらも相棒として認めている、という関係性を読み取ることができます。青春モノのお約束ですね。この感じ、大好きです。

と、思ったところで次章とつぜん「半年前 三十歳」という文字が。あれ? 冒頭はただの回想? でも半年前ってことはこれも回想だよね? 現在はいったいいずこ? その半年前では、好物のナポリタンを頬張りながらプロポーズ大作戦なるものを口にするマコト。彼を迎えに来る、超美人でスタイルのいいモデルのリサ。普通に考えれば、彼女がプロポーズされる相手ですね。でも、勘のいい方ならすぐにわかるはず。そんなストレートに話が進むわけがない。この著者は読者を騙す気満々だ、と人を煙に巻くようなマコトのキャラや文体の端々から感じるでしょう。

はい、そして再び次章で13年前の17歳に物語はもどり、そこに登場するのが2人の同級生女子・ヨッチ。彼女がおそらく物語のキーであろうこともわかります。わからないのは、ドッキリスト&ビビリストのコンビがいったいどこへ向かおうとしているのか。過去と現在をいったりきたりしながら、プロポーズ大作戦の真相に物語は向かっていくというのが本作のストーリー。

伊坂幸太郎さんの影響を受けている、という方もいるみたいですがなんとなくわかります。ルービックキューブをいじるみたいに、かちりかちりと色がそろって物語が少しずつ姿を現していく、そんな巧みな構成はたしかに通じるところがあるかもしれません。ラストにたどりついたとき、このタイトルの意味もじんわり効いてくるのも絶妙(受賞時は「マチルダ」だったそうですが)。

なぜこれを買い直したいかと思ったかというと、読み終わったあとに、仕込まれた伏線を読み返したくなるんですよねー。でも電子って、そういう漠然とした読み返しには向いていないと思うのです。ぱらぱらっとページをめくる、本の厚みの記憶でなんとなくさかのぼる、そういうのにはちょっと不便なんだなあ、と改めて電子と紙のちがいを実感した作品でもありました。
今後の作品も期待大の作家さんです。


最初は高校生、そして突然30歳

ときおりこうして断片が入り

そしてまた高校生に戻ったりする。構成に注目!

誰にも気づかれずに仕込むから、彼はただのサプライズ好きではなく「ドッキリスト」なのです

俺、マコト、ヨッチ。親のいない3人の出会い。そしてここで名前が語られないことにも注目

そして「俺」は今、殺し屋ならぬ交渉屋になっていたりするという……