原田マハの「映画」を題材にした本作、読めば必ず、目と心が熱くなります

小説・エッセイ

更新日:2013/8/7

キネマの神様

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:原田マハ 価格:669円

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カタンコトンという電車のリズムに揺られながら映画をみたのははじめてでした。新橋のガード下には、小さな名画座があります。そこで過ごした時間は、「ひととき」というにふさわしい特別な感じがありました。道に迷って偶然見つけた名画座ですから、なるほど、わからないままに歩くというのも不安ではありますが、たまには良いのかもしれません。夕暮れに「昼下がりの情事」。白黒のオードリー・ヘップバーンに魅せられ正体不明のおっさん方と共有したあのひとときは、何にも代えがたい幸福な時間でした。

『キネマの神様』。最近『楽園のカンバス』などで話題の作家、原田マハさんの「映画」を題材にした作品です。39歳の独身女性、歩は大手再開発企業で、シネマコンプレックスを中心とした文化・娯楽施設を開発するプロジェクトのリーダーを務めていましたが、嫉妬のためあらぬ噂を流され左遷、自ら会社を辞職します。歩には病気の父がいました。というと弱弱しく聞こえますが、その父は麻雀や競馬好きのギャンブル狂で借金だらけ。無鉄砲な性格は病気になっても変わりません。

父にはただひとつ、健全な趣味がありました。それは映画を見ること。友人が営む名画座を、とても大事に思っていました。ある日父は「映友」というかつて一世を風靡した歴史ある映画情報誌のネットサイトに、歩の映画批評を投稿します。それを見た「映友」の編集長は、歩をライターとして雇うことに決めますが、そこにはとある事情があったのです。話は大きな展開を迎え、なんと世界にまで届きます。日本の小さな映画好きの想いが、世界の大きな映画好きのもとへ。映画をめぐる人間愛がこの作品の大きなテーマであり、胸を打たれること確実です。

本作には随所に映画がちりばめられており、知った名作をより愛おしく、知らない名作は必ず見たくなります。DVDではなく、スクリーンで見る映画の意味を私たちに教えてくれます。今はあまり見かけない名画座ですが、あの新橋のガード下のような場所に、ひっそりとたたずんでいるのです。カタンコトンというリズムの下、あれほどまでに映画を味わったことが、かつて私にあったでしょうか。きれいな大型の映画館にはきっといなんじゃないかしら、「キネマの神様」に出会い、そして大切なことを教えてくれる1冊です。大好きな映画をみるように、この本を手に取ってみていただきたいなと思います。


入院した父の弱音。映画のタイトルが次々と

父の想い

この最後のセリフ。好きなんです

名画座の努力です
(C)原田マハ/文藝春愁