虚構に浮き上がる心の叫び

更新日:2014/2/20

オヤスミ・フクロウ(1)

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:穐山きえ 価格:540円

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 この作品の題材は、ライブチャットです。といわれても、なんのこっちゃ? と思われる方もいらっしゃるでしょう。どういうものかというと、パソコンを使った女の子とのコミュニケーションといえば聞こえはいいですが、早い話がITキャバクラですよ。サイトと女の子にお金を送って相手してもらうサービスだそうです。青年誌で風俗業を扱った作品は、まあ見かけます。最強のママに成り上がる話でもいいし、もっと自滅的な物語もありでしょう。

 でも、この『オヤスミ・フクロウ』という作品には、「とりあえずかわいい女の子描いてエッチな話にしておけば大丈夫だって!」という開き直りがありません。ともすればテンプレになってしまう、リアルでは地味な図書館の臨時職員でネットではチャットガールという主人公の聡子さんもそうですし、チャットガールのランキングで1位を走っている、るぃさんにもいえることですが、とにかくキャラクターひとりひとりの心情に丁寧に寄り添います。

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 男性恐怖症の聡子さんが、なぜチャットガールをするのか? お金のためとか(電気止められるほど薄給だし)、寂しいからとか、落としどころはいくらでもあるだろうけれど、作者は安易な結論には飛びつきません。ようやくみえてきた、「誰かにオヤスミと言いたい、言われたい」という表題と関係するところですら、本当のゴールではないような気がします。自分では割り切ってやっているつもりのるぃさんも、聡子さんと偶然関わることで心が揺れます。客の男とどうなった、などというエピソードは今のところまったくなく、作者はどこまでもストイックに、チャットガールの内面を描き続けています。

 そして目からウロコだったのがあとがきです。作品誕生の経緯として、担当編集者に「エッチなマンガを描こう」といわれたとあります。結果、聡子さんのランキング同様に、マンガの世界で下位だったという穐山さんの本作は単行本になります。このことを知って読み返すと、キャラクターの言葉がさらにぐっと重たくなる作品でした。


「オヤスミ」の挨拶。作品の底に流れることになるフレーズです

昼間の聡子さん。地味っぷりを遺憾なく発揮

チャットガールがどういうものか、ちゃんと説明があります

ランキング1位のるぃさん登場
(C)穐山きえ/講談社