悲惨さだけが残る「戦争もの」ではない。戦時中に生きた人々の息づかいを感じてほしい
公開日:2011/9/4
この世界の片隅に (上)
ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android | 発売元 : 双葉社 |
ジャンル:コミック | 購入元:eBookJapan |
著者名:こうの史代 | 価格:500円 |
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映画化もされた著者の代表作『夕凪の街 桜の国』は原爆投下後の広島市を描いたものですが、この作品は戦時中の広島県呉市が舞台。主人公の浦野すずが呉市の北條周作の家に嫁ぎ、嫁としてその家族とともに暮らす日々を描いた物語です。
第13回(2009年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作品。
「戦争もの」と呼ばれるものは、映画でも漫画でも、ほとんどの人が何かしら見たことがあると思います。残酷で辛くて悲惨な戦争。そしてその中でひときわ光る友情や家族愛や恋人たちの想い。確かにそれらを見たり読んだりして私も涙を流しますが、でもやっぱり映画や漫画の中だけの話、それこそ本当に遠い国のおとぎばなしを見ているような感覚。いわゆる「戦争もの」って、なんだか見ている人を泣かせようとしている物が多くて、リアリティに欠けている気がします(もちろんそんな作品じゃないものもたくさんありますが)。
この漫画は、そんな「戦争もの」にありがちな”お涙頂戴”作品ではありません。本当に、ただ当たり前に広島で生活していた人々の日常を描いているものです。
美しい田舎の風景。優しくて大切な家族。そして自分が愛する夫。戦争映画にあるような悲惨なシーンもほとんどありません。淡々として平凡ではあるけれど、むしろ幸せで楽しい毎日。でもだからこそ、戦争があった時代の残酷さ、そしてあの時代を生きた人たちの息づかいを感じずにはいられません。
著者の参考文献の多さからも、この作品のリアルさが決して偽物ではないことを示しています。後世にわたっていつまでも読み継がれて欲しい1冊です。
古き良き日本の風景
印象的な風景のカットが至る所にあります
すずと周作、二人の間に流れる穏やかな空気
私が好きな1ページです
戦争が徐々に幸せな日常を侵食していきます
すずと周作の幸せなシーン (C)こうの史代/双葉社