人口減少対策に有効なのは、ベストセラー『地方消滅』の「選択と集中」か、本書『地方消滅の罠』の「多様性の共生」か

ビジネス・社会・経済

2015/3/3

地方消滅の罠 ――「増田レポート」と人口減少社会の正体

ハード : 発売元 : 筑摩書房
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 「2040年までに全国896の自治体が消滅する可能性」という衝撃の内容で、ベストセラーにもなった『地方消滅』(増田寛也/中央公論新社)。本書はその反論として書かれた1冊です。しかし、本書の目的は『地方消滅』をただ批判することではなく、地方消滅につながる人口減少を、『地方消滅』とは異なる視点から考え、その解決策をさぐることです(『地方消滅――東京一極集中が招く人口急減』は、日本創成会議(座長・増田寛也)・人口減少問題検討分科会の報告『成長を続ける二一世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』(増田レポート)を中心にまとめられたもの。本書はその報告と『地方消滅』両者を対象としている)。

『地方消滅』の中心的な考えは「選択と集中」

 「増田レポート」の中心的な考え方は「選択と集中」といいます。同レポートでは、人口対策のひとつとして、「若者に魅力ある地方中核都市の形成」をあげています。これは、若者たちの出生率の低い東京など大都市圏への人口流入を防ぐために、魅力ある地方中核都市づくりへ、資源、政策を集中的に投入するということです。若者たちを地方都市に押しとどめるという意味で、地方都市の「ダム機能」あるいは「人口ダム」と呼んでいます(「地方中核都市」は、国の「地方中核拠点都市」<人口20万人以上>にある程度重なるとされるが、前者は外からの選択、後者は自治体自選)。

 本書は、このような「選択と集中」のやり方に異を唱えています。「平成合併で人口だけは増やしたので、20万超都市は全国各地にある。また資本の集積はすでに行われ、全国のチェーン店がバイパス沿いに並び、地元業者のネットワークはその傘下におさめられている。あらためて「選択と集中」などしなくても、マクロ的にみればすでにそのように進行し、しかもその資本が、しばしば地元の地域社会を解体させてきたのだ」(要約)と述べ、『こうして、全面的な総都市化により都市農村関係が変化し、家族・地域・就業場所のバランスが大きく崩れたことが、人口減少の要因の一つである。(中略)地方中核都市への人口集中(人口ダム)は、そのバランスをむしろ突き崩すだろう。バランスの再調整のためには、「選択と集中」ではなく、もっと別にやらねばならないことがあるはずだ』(第1章から)といいます。

 さらに「選択と集中」という選択を受け入れるかどうかかの選択が必要と説き、「“自治体消滅”“地方消滅”、さらにはこの国の消滅へ――こうしたセンセーショナルな物言いに惑わされて、選択を強制する策略にのってしまうのがもっとも危うい選択だ。(中略)そういう選択はやめて、多様なものが多様なまま、互いに存在を認め合って共生することを選ぶべきではないのか。そこには集中ではなく分散が、そして強い経済力ではなく持続力やしなやかさが対置される」(4章から)といいます。

本書の主張は「多様性の共生」「分散と回帰」

 ここに本書の「選択と集中」への対立軸が述べられています。それは「多様性の共生」を基本に、画一性や排除・切り捨てにつながる「選択と集中」の「選択」には「多様性」が、「集中」には「分散と回帰」が対置される、成長を前提とした経済指向ではなく「持続と循環」を目標とする選択です。

 人口減少社会のゆくえに、さらに国のあり方としてなにを選択すべきなのでしょう。「バブル崩壊後、現在まで、私たちは集中化への道を歩んできた。大きな破綻に至る前に、集中から分散への再転換を実現していく必要がある」(終章から)といいます。『地方消滅』の「選択と集中」による地方中核都市への集中投資を軸にした、新たな集積構造の構築という道でしょうか。本書では「多様性の共生」を理念に、地方への「分散・回帰」を進め、多様な価値観が共生しながら、都市・農村関係、地方・中央のバランスを再構築するという道も、人口問題の解消へつながると提言しています。

 終わりに、本書から数字を一つ紹介します。1994年から2003年の10年間は1002校。2004年から2013年の10年間は2289校。各10年間に日本各地で閉校した小学校の数です(「学校統計調査」文部科学省。2004年の小学校総数は2万3420校:「学校基本調査」)(2章から)。これが、これまでの「選択と集中」の結果からか、あるいは「多様性の共生」を欠いた結果からかは不明です。ただ、その地域にこれから若者たちが住むことはありません。そこではもう子育てができないのですから…。


目次から

増田レポートの「選択と集中」の「選択論」は、選ばれる側の議論であり、選ばれない側にとっては「排除の論理」と指摘(3章から)

人口減少社会のほんとうの目標は、自立した人間・社会をできる限り取り戻すこと。もっとも恐れるのは国民の依存といいます(3章から)

最近の人口移動としてのふるさと回帰・田園回帰・地方回帰にもふれ、それに対応した政策展開が地方消滅解消につながると述べています(5章から)