2010年03月号 『天地明察』冲方丁

今月のプラチナ本

2010/2/6

天地明察

ハード : 発売元 : 角川書店(角川グループパブリッシング)
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:冲方丁 価格:1,944円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『天地明察』

冲方 丁

●あらすじ●

四代将軍家綱の御代。江戸の町に、慣れぬ2本の刀をさして、神社の算術絵馬を眺める男が居た。碁打ち衆である安井算哲、またの名を渋川春海。算術や天文観測・暦術にただならぬ興味を持つ青年であった。過去の名棋譜に従って碁を打つ勤めに“飽き”、自分だけの“春の海辺”=己にしかなせない行いを求めて過ごす春海に、あるとき老中・酒井が言った─「退屈ではない勝負が望みか」。その真意は、現在の不正確な暦を廃し日本独自の正確な太陰暦を作り上げることにあった。天の星をもって地を測り、正しき術理をもって天下の御政道となす。20年以上にわたる、天を相手の真剣勝負がはじまった。江戸初期を生きた実在の人物の生涯と、日本文化を変えた大いなるプロジェクトを、みずみずしい成長物語としても描いた傑作長編。

撮影協力=大名時計博物館(東京都台東区)

うぶかた・とう●1977年、岐阜県生まれ。4歳から14歳までを、父の仕事の関係で外国(シンガポール、ネパール)で過ごす。96年、大学在学中に『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。小説のほか、ゲーム、コミック、アニメ制作などの分野でも活躍する。2003年、『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞を受賞。

『天地明察』
角川書店 1890円
写真=首藤幹夫

編集部寸評

世界の姿を明らかにする快楽

本当のことを知ることは快感なんだと思う。難解なパズルを解くのも、フェルマーの最終定理を証明するのも、痺れるほど気持ちいいに違いない。知ることは生きるのに絶対必要なこと。ヒトはこれまで、多くの謎を解き、真理に近づくことで生き永らえてきたから、知ることや解くことは生存本能に直結した快楽になったのだろう。ゆえに数学も科学もエンターテインメントたり得る。本作の主人公・春海も、そんな快楽に囚われたひとり。しかも彼が解き明かすのは数式や天文学の謎だけではない。江戸時代の風俗、町並みから、江戸城内の権力構造、“暦”が宗教・政治・文化・経済の全てに君臨する世界の真の姿まで緻密に解析してくれる。見事! 冲方丁はすごい作家になった。そして彼こそ、知の悦楽を知り尽くした書き手なのだと確信した。

横里 隆 本誌編集長。冲方さん原作のマンガ『ピルグリム・イェーガー』『シュヴァリエ』もオススメ! 膨大な知識量に感服

切磋琢磨する男たちが眩しい

天才でもないのに、その人柄をいろんな人に見込まれ、いつくかのチャンスを与えられる渋川春海。彼の人間味あふれる穏やかで粘り強い性格はとても魅力的だけれど、私は彼をとりまく老若のさまざまな男たちにすごく刺激を受けた。北極新地へともに出かける建部昌明(62歳)と伊藤重孝(57歳)。熟年で引退間近なはずの彼らの、嬉々として観測の先頭に立つ、向上心みなぎる姿。本因坊道策の碁の道を極めんとするまっすぐな闘争心と責任感、関孝和の算術という学問に対する熱く真摯な思い。つらい経験から君主たるものの道を考え抜き、実際にその政治姿勢を貫いた保科正之。それぞれの立ち位置で精進しているさまには、時代小説ならではの清清しさがある。ずっとずっと読んでいたい。そう感じた小説だった。

稲子美砂 『日本人の知らない日本語2』がいよいよ今月19日発売に。特集の外国人インタビューは爆笑必至。合わせてどうぞ」

春海の人間味にやられた

毎日暮らしている「暦」が間違っている――なんて大事に気が付く人はまずいないだろう。もしそんなことが起こったら、ガリレオの天動説を覆す地動説と同様の大事件。本書を読んで暦を変えるという大事業の全貌をはじめて知った。この物語の「大和歴」をひっくりかえした人物、渋川春海。本書の最大の魅力は、春海のキャラクター造詣にある。和算の関孝和や碁の本因坊道策、会津藩の保科正之、代々続く名家の陰陽師らと並ぶ大天才らの傍で、実に穏やかで温かく、のんきで、脇が甘い人物。いいヤツなのだ。作者が見つけた資料に、「大失敗をした直後の春海の記録に『勇気百倍』と書いてあった」そうだが、それは……『アンパンマン!』! 究極のポジティブ! 江戸時代の天命をめぐる人間絵巻。ラストまで一気読みです。

岸本亜紀 恩田陸の英国ゴーストストーリー『私の家では何も起こらない』発売中。内容は優雅でデザインは綺麗と評判

伝記を読む興奮を思い出した

ジソン」や「キュリー夫人」など、人物名だけが素気なく書かれた表紙の伝記。子どものころ、親に読まされたことを思い出した。勉強みたいでイヤだなあと初めは思うのだが、ページをめくるうちに夢中になる。今では「あるのが当たり前」と思っている物を、かつての人類は持っていなかった。そしてそれを作り出した人がいた。存在しなかったものが生み出される、そのダイナミズムに興奮して一気に読み終えたものだった。そして本書『天地明察』は、そんな興奮を何倍にも大きくして与えてくれる。歯切れよい文章、魅力あふれるキャラクター造形、胸を打つセリフ回し――かつて読んだ教育書にはなかった、“小説”ならではの力が全編にみなぎっている。冲方さんの描く渋川春海を、われわれ読者はみんな、好きになってしまうのだ。

関口靖彦 今年も「マンガ大賞」に選考員として参加しています。数十巻に及ぶ候補作品を読み漁るのが、毎年のお楽しみ!

モーツァルトになれなかった人

アマデウスとサリエリみたい。もちろん春海がサリエリだ。算術の才能じたいは関孝和のほうが圧倒的だろう。でも“一番”の才能ではなくても、「退屈でない勝負」にめぐり会うことはできるし、形は変わっても才能が生かされるチャンスはある。関に対する敗北感とともに始まるがそのチャンスに春海が気づいてゆく過程でもあった最初の旅が、わたしはとても好きだった。とくに「頼みましたよ」「頼まれました」の幸福感。

飯田久美子 でも圧倒的な才能のキラキラ感にはやっぱりどうにも抗えない、ともオザケンの動画を復習していて思いました

最高に読後感のいい時代小説!

主人公・渋川春海は、関孝和や道策のような天才でもなければ、保科正之のような権力者でもない、そこそこ育ちがよくて算術好きな、ひょうひょうとした男だ。そんな一見どこにでもいそうな若者が、周りの人々の思いを背負うごとに強くなっていき、遂には後世に残るような大事業を成していく。実直で素直な春海を信頼したからこそ、後の偉人たちも彼に思いを託した。彼の“人柄”こそが“才能”なのだと思わされた。

服部美穂 1特堺雅人特集で、堺さんの写真からイメージした小説を伊坂幸太郎さんが書き下ろして下さいました! どちらも必見!!

男たちの戦い

四季折々、多彩な年中行事や祭事は暦によって定められ、民衆生活を大きく占める。だが、これまで使われてた暦は間違いで、800年かけて2日のズレが生じていると言われたら。その意味を受け入れることがどんなに困難なことか。碁打ち衆という安定した職を捨て、天の理に挑むという途方もない道を選ぶ春海は、生きる力に満ち溢れた不思議な魅力の持ち主だ。彼を取り巻く天才たちとの生涯をかけた戦いが描かれている。

似田貝大介 『天地明察』と同時刊行の、冲方氏「最後のライトノベル」と銘打たれた『テスタメントシュピーゲル』もオススメ!

春海のキャラクターがいい

数々の挫折を乗り越え、生涯を新しい暦作りに捧げる渋川春海、そして彼を支える人々の様々な想いに感動。壮大な改暦事業に一新に取り組む・春海の純粋な心と情熱、魅力いっぱいの登場人物たちに、心をゆさぶられまくりました。囲碁・数学・天文学、そして毎日私たちが何気なく使っている暦の数々のエピソードも楽しい(絵馬が算学を広めるものだったとは!)。これは老若男女が楽しめる、新しい時代小説だと思う。

重信裕加 正月から風邪で寝込んでしまい初詣もまだ。会社の近くの金王神社に行こうと思いながらも、もう2月……


愛すべき先達の活躍に興奮した

算術が人々の趣味・娯楽だったという時代背景や、当時の星観測方法など、物語の中に盛り込まれた史実が、とても興味深かった。“武士”という存在の描かれ方などは、冷戦以降の世界情勢と同じからくりで、私たちは歴史に学んでいないなぁと残念な気持ちにも。個人的に一番よかったのは、すばらしき先達である渋川春海の仕事を再認識できたこと。努力と才能の人が大きな仕事をやり遂げたことにスカッとした。

鎌野静華 お話の中に出てくる“三島大社”は個人的によく行く神社なので、読んでいて楽しかったです

天地に響く、求道のこころ

手をもって祈念するとき、そこに天地が開く}―春海がはじめて関孝和(の稿本)と対峙したとき、打ち鳴らした拍手の、神聖さにふるえた。ひとは幼き日に得た“なにか”を克服、あるいは再び獲得するため一生を懸ける、というのが持論なのだけど、それはまさしく春海がそのなにかを得、新しいものに変えて踏み出した一歩だった。ひたむきに窮理を求める精神がなによりも胸を打つから、この物語は細部まで彩られる。

野口桃子 『天地明察』に胸踊ったなら2月25日発売『蒼きサムライ』(福田栄一)もオススメ。元服したての若侍の青春活劇です!


忘れられない、音がある

春海の人生を通した挑戦が、さわやかに、身体性豊かに描かれる。「からん、ころん」、算学奉納の絵馬の音。勝負の始まりを彩るものとして、頭の中で鳴り続けた軽妙な響き。ほかにも、北極出地で先達とともに刻んだ、歩測の一歩一歩、視界に焼きつく筈の、星空の広がりと深さ。向かってくる天と地のその様相を、春海はまっすぐ受け止める。身体に刻まれたいくつもの忘れないもの。それを見事に描き出して一気読みだった。

岩橋真実 第一特集の「俳優・堺雅人」、つながりのある方々から寄せられたとっておきエピソードは必見です!

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