2008年07月号 『愛しの座敷わらし』荻原浩

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

愛しの座敷わらし

ハード : 発売元 : 朝日新聞出版
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:荻原浩 価格:1,944円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『愛しの座敷わらし』

荻原 浩

●あらすじ●

父・晃一の転勤で田舎の古民家へ引っ越すことになった高橋一家。しかし家でも会社でも居場所がない晃一、周りから認知症と言われる晃一の母・澄子、夫の能天気さに不満なしっかりものの妻・史子、ひそかに友人関係に悩む中2の娘・梓美、好奇心旺盛なのに過保護に扱われる小4の息子・智也と、家族の心はばらばら。そんな一家が新居に移って間もなく、智也と澄子は着物を着た不思議な子に出会い、梓美も鏡に人の顔が映るのを見た。さらに史子も気づかぬ間に物が消えるという現象に遭遇する。やがて、家には座敷わらしが居ついていることがわかり、家族の関係に微妙な変化が……。田舎の生活と座敷わらしとの出会いをきっかけに家族が絆を取り戻す再生の物語。

おぎわら・ひろし●1956年、埼玉県生まれ。97年、『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。2005年、『明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞。同作は翌年映画化され、大ヒットを記録した。

朝日新聞出版 1890円
写真=冨永智子
advertisement

編集部寸評

座敷わらしはただそこにいて
僕たちの心の形を映し出す

最近ちょっと弱っていて甲斐駒ヶ岳の東側山麓に移り住みたいなどと夢想している。見事な景勝地で、山は何も語らなくともちっぽけな自分を思い知り楽になるからだ。そこに座敷わらしはいるだろうか……。本書の中で座敷わらしは何も喋らない。何も求めない。己の悲しい過去にも囚われていない。ただそこに佇んで、訪れた者の心を映す。元来、妖怪や土地の神はそういう存在だったのだろう。怖れる者には荒ぶる神になり、讃える者にはもたらす神となる。座敷わらしが淋しそうなのは、訪れた家族の各々が、一緒にいるのに淋しい思いを抱いていたから。座敷わらしが愛しいのは、誰もが愛してほしいと願っているから。やさしい物語に少し元気を貰った。

横里 隆 本誌編集長。武川から眺める南アルプスは圧巻です。上高地にも匹敵する景勝です。ぜひ一度体験あれ

座敷はありませんが、
編集部にも来てほしい

初の新聞小説(朝日新聞 夕刊)として、できるだけ多くの人が入りやすいような構成で書かれたという本作。5人家族の高橋一家それぞれの視点で、初めての田舎暮らし、そして座敷わらしとの交流を描いている。各々抱える悩みは現実的なものだけれど切羽詰った悲壮感がなく、どことなくユーモラス。座敷わらしの出現によって、さらにそんな雰囲気が増していく。小さな子どもが苦手な私でも、座敷わらしの風貌やしぐさはとてもかわいらしく、一度見てしまったら怖がるというよりも、きっとまた会いたいという気持ちになるのだろう。夜中の編集部、書庫の中で、と、と、と、と、と、と音がすると、遊びに来たのかなと期待してしまう今日このごろ。

稲子美砂 映画『歩いても 歩いても』がよかった。こちらも家族を描いた作品だが、全然違った印象。気がつくと泣いてます

この家族、なんでこんなに
みんなかわいいのかしら?

かつては子どもの誕生を喜び、家族が一丸となって明るく笑顔で暮らしていたはずが、子どもの成長とともに、家族のつながりは薄れ、それぞれの「個」の世界の住人になってしまう。でも、この物語は違う。きっとそれは、お父さんが単純で、お母さんはざっくりしているからだろう。だからこそ、座敷わらしは3人目の子どもとなり、家族全体が笑いを取り戻せたのだ。実際にはこんな家族はなかなかいない。けれど妙にリアルな細部が笑える。座敷わらしの登場で、母はかわいいオンナになり、それを見た父親は勘違いし、姉弟は幼少期に置き忘れた姉弟愛を取り戻し、おばあちゃんは元気になり。みんなが自然にひとつになるところが、なんともかわいいのだ。

岸本亜紀 大田垣晴子の文庫『オトコとオンナの深い穴』『新装版 東京リラックス』を準備中。キャンペーンやります

誰もが胸の底に持つ、
家庭を回していく力

どうして父親というものはマヌケになってしまうのだろう。仕事のため、妻のため、子供たちのため——考えれば考えるほど、見当ちがいなほうへ行ってしまう。それはきっと、自分でも気づかないうちに自分に言い訳しているからで、大変そうなことは後回しにして、ラクそうなほうへ見境なく踏み出してしまうのだ。でもそんな晃一の姿を、笑うことはできない。間違いなく、私もそちら側の人間だから。そしてだからこそ、晃一にあきれながらもなんとか家庭を回してくれる家族を見て、しみじみとうれしいのだ。腹立たしいことも、哀しいこともある。でも、なんとか家を�いいもの�にしたい。誰もが根っこに持つその気持ちこそが、座敷わらしなのだと思う。

関口靖彦 弊誌連載小説『転がるマルモ』が本になりました。たくさん笑ってちょっぴり泣ける関西弁ホームコメディです

足の届かない
自転車に乗って

ほかの家族が新居半径3m圏内でウダウダしている間に、小さい智也は自転車でひとり遠くまで出かけてゆく。実距離は遠くないかもだけど、でも遠くだと思った。大人は、どこへだって行けるのに、じっさい生きてる範囲の狭さはどうだろう。足の届かない自転車に乗ってたどり着いた知らない町は、新幹線でも飛行機でも届かない遠くにあったなあ。

飯田久美子 田舎での生活を夢想する方には、瀧羽麻子さんの『株式会社ネバーラ北関東支社』もオススメです!

座敷わらしがとにかく可愛い
ほのぼのファンタジー小説

高橋一家は、各々に悩みを抱えたまま分かち合うこともできず、ただ家族の形を保っている現代の典型的な家族だった。そんな彼らが座敷わらしに出会い、少しずつ変わっていく。彼らはいるはずのない存在に出会うことで、自分の目に映るものしか見えなくなり、がんじがらめになっていた自分に気づくのだ。ああ、私も座敷わらしに会わなくちゃ。

服部美穂 オノ・ナツメ特集、オノさんと、小説家の堀江敏幸さんのコラボ企画、よしながふみさんとの対談など超豪華!

座敷わらし×都会の家族
ふんわりとした幸福の一冊

以前、荻原浩さんにインタビューした際に“座敷わらし”を題材にした作品に着手していると聞き、とても楽しみにしていた。きっかけは座敷わらしだったかもしれないが、高橋一家の巧みな会話のかけ合いに引き込まれた。一癖ある面々ばかりだけど、彼らはどこにでもいる人々なのだ。座敷わらしを通して見えたのは、彼らの幸福な笑顔だった。

似田貝大介 母方の実家は岩手県の遠野で、むこうへ遊びに行ったときは、座敷ぼっこや河童の話をよく聞いたものです

と、と、と、と。座敷わらし
が近づく、幸せの福音

懐かしいホームドラマを彷彿させながらも現代事情に悩む平成ファミリーと座敷わらし。その組み合わせと、一家のズレが妙に面白い。何も言わず望まず、ただそこにいるだけの座敷わらし。この見えないフィルターを通して、いろんなことに気づき癒され、考えた。この音を忘れないよう、これからもずっと耳を澄ませらたら、どんなに幸せだろうか。

重信裕加 今号で紹介している、さだまさしさんの『茨の木』を読み泣いてしまいました。そろそろちゃんとしなきゃ

本書の効能=あらゆる
こわばりを解きほぐす、ほか。

誤解を恐れずいうと、本書は「ぬるめの風呂」のような物語だ。感情を大きく揺さぶる性質のものではない。けれど「冷え性の人こそ、ぬるめの湯に長くつかったほうがいい」というように、刺激を求める人こそ、ゆっくり少しずつでもこの“普通”の家族の物語を読んでみるといい。「読書」によって得られる、未知の効能を実感できると思うから。

奈良葉子 豊島ミホさんの連作短編集『初恋素描帖』が、8月に刊行予定。色々な楽しみ方ができる、画期的な作品です!

母強し。やっぱり
それが家庭円満の秘訣?

高橋家のお母さんが史子さんでよかったな〜と思う。愚痴をこぼしつつも前向きだから。夫と姑、子ども二人の面倒を一人でこなす普通の主婦の姿が、なんともパワフル! そんな史子さんだからこそ、家族をひとつにできたのだと思う。座敷わらしをかわいいと思えたのも、その強さと余裕の賜物。晃一さんはもっと妻に感謝したほうがいいね。

鎌野静華 「カキ氷はじめました」の文字に惹かれ、台湾料理屋さんでカキ氷を食べました。美味すぎて瞬殺されました

家で起こる小さな不思議を、
ふと思い出して微笑んだ。

みるちゃん、という誰も知らない友達の話を、幼い妹が毎日していたことがある。家族は首をかしげ、でも話が始まるといそいそと集まり耳を傾けた。“不思議”ってとても大事だ。わくわくするし、会話も弾む。そういう不思議や謎こそ人間関係のコツなのかも。座敷わらしが高橋一家の絆をとり戻し、友達づくりのきっかけとなってくれたように。

野口桃子 梨木香歩さんのインタビューと、そこを彩る草花に、感動を通り越してトランス状態。なかなか元に戻りません

かわゆいアイツはうまいことに
田舎の古民家に住んでいる

座敷わらしは「失ってしまった素朴さ」への憧憬をかき立てる。僕は時折ふらっと田舎へ行きたくなるのだが、実は求めているのはそういうものかも。都会の生活に慣れて失ったものを取り戻したいのだ。でも、うちに座敷わらしはいないし、旅に出る時間もなかなかない。だから僕は本を読むのだ。田舎と座敷わらしのコンボ発動。効果はばつぐんだ!

中村優紀 最近、ビジネス書に手を出しはじめました。無性に何かやらなきゃという気にさせられますが、現実は……

座敷わらしの由来を
知らない人はぜひ読んで

物語の終盤、座敷わらしの由来となる話を聞き、中2の梓美と小4の智也は意味がわからずきょとん。そこを読み、中学生のころだったか、私も学校で習ったときショックだったことを思い出した。大人になると誰しも頭でっかちになり、それを知識としてしか処理できず「感じる」のが難しい。ぜひ、多感な年頃のうちに知っておいてほしいと思う。

岩橋真実 それにしても座敷わらしがかわいかった。かくれんぼしている装丁もかわいくて、心がほっこりしました

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif