無理は禁物! レジャーシーズンだからこそ考えたい「登山中の突然死」を避ける方法

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更新日:2018/3/1

『ドキュメント 山の突然死』(柏橙子/山と溪谷社)

 夏といえばレジャーだ。開放感たっぷりの海で仲間と一緒に朝から晩までひたすら泳ぐのもよし、自然な涼しさを求めてこの機会にと山へハイキングに出かけるのも醍醐味である。しかし、登山中に心臓病や脳卒中などを発症して、24時間以内に死亡に至る「突然死」に見舞われるケースもあるという。

 その実例や対策を取り上げた一冊が、文庫『ドキュメント 山の突然死』(柏橙子/山と溪谷社)である。

◎転落事故なども「突然死」が原因かもしれないという指摘

 世界保健機関(WHO)によれば、突然死とは一般的に「明確な原因がないまま、症状が出現してから24時間以内に死亡に至ること」と定義付けられている。日本では年間5万人という統計もあるが、あくまでも報告例であり実際はこれ以上だという見方もある。

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 では、何割が登山中の突然死に該当するのかといえば、本書では「日本にはそのデータがない」とされている。しかしながら、日本勤労者山岳連盟加盟の山岳会(2011年時点、650団体・2万5000人)の統計によれば、2000年から2005年6月までに登山中の病気の事例は39件あり、そのうちの13件が突然死だという。

 死亡した際の明らかな状況が分からない場合も多く、崖から転落または滑落した場合であっても、その直前に「意識を失ったもの、死に至るような症状を発した結果を伴って転落・滑落したものもいるかもしれない」と本書は指摘する。

◎「がまん強い」と言われていた男性が突然死した事例

 ここで、本書から登山中に突然死した事例を取り上げてみたい。59歳の男性、Nさんはその一人だ。Nさんは2006年10月8日、所属する山岳会のメンバーと一緒に仙丈ヶ岳にある小仙丈沢での沢登りへ出かけた。当日は5時に起床したNさんであったが、妻の記憶によれば、いつも通りで何ら変わった様子もなかったという。

 メンバーと合流し、入渓したのが7時40分頃。合計3度の休憩をはさんだのち、初めに異変がみられたのは入渓から約2時間半後となる10時過ぎのことだった。

 当初から、仲間内では「がまん強い」と評価されていたNさんは「胸が痛い」と訴えた。普段とは違う様子にとまどうメンバーは、その声を受けてしばしの休憩を取った。やがて、仲間から「この先、ゆっくり行ってみようか」と提案されたNさんは「そうする」と答えてふたたび歩みを進めた。

 やがてメンバーはNさんを気づかい、斜面を水平に横切るトラバースという方法での下山を決断した。しかし、その決断をした直後である14時過ぎ、Nさんは「うっ」とうめき声を上げて倒れた。初めはつまずいたのかと思って駆け寄ったメンバーであったが、時すでに遅く、意識もなく呼吸もなかったNさんはその後の救助もむなしく帰らぬ人となった。

◎登山中の「突然死」を防ぐために心がけておきたいこと

 本書によれば、登山中の突然死はその原因が「心臓にあることが圧倒的に多い」という。疲労から来るストレスはそれを誘発する一因となり、実際、先のNさんも登山前日に自宅のある神奈川県から静岡県三島市へ日帰りで出張し、夜遅くに帰るスケジュールで過労をきわめていたという。

 そのため何よりも、登山へ向かう場合には、当日に向けてしっかりと休息を取っておくのが大切になる。留守中の仕事や家事を早めにこなそうと張り切らず、準備に追われて前日に夜更かしするような事態を避けるためにも、余裕を持った計画をやはり立てておきたい。

 また、登山中は「水分摂取」が重要だと本書は指摘する。その理由は「脱水になると血液の粘稠度が増加しやすくなり心筋梗塞や脳梗塞の誘因となる」からであり、できれば山へ入る前も水分をたっぷりと取っておく。汗をかいたあとはビールを飲みたくなるところだが、下山後もまずはきちんと水分を補給するのがよいそうだ。

 備えあれば憂いなしとは、昔からよく使われる言葉である。レジャーはもちろんめいっぱいに楽しんでもらいたいところだが、いつ何時、自分に降りかかるかも分からない登山中の突然死について本書で学んでおくのも身を守るための一つの手段である。

文=カネコシュウヘイ