「ママがおばけになっちゃった」シリーズ最新刊のテーマは“結婚” のぶみ著『ママがおばけになっちゃった! ぼく、ママとけっこんする!』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『ママがおばけになっちゃった! ぼく、ママとけっこんする!』(のぶみ/講談社)

2015年の発行以来、ママたちの絶大な人気を集める絵本シリーズ『ママがおばけになっちゃった!』(のぶみ/講談社)。刊行初日に増刷、Amazon全体のランキングで1位獲得などいきなりブレイクし、続く『さよなら ママがおばけになっちゃった!』最新刊『ママがおばけになっちゃった! ぼく、ママとけっこんする!』もあわせ、現在シリーズ累計60万部を突破する大ヒットシリーズだ。

タイトルから想像がつくとおり、第1作『ママがおばけになっちゃった!』は冒頭でいきなり“ママは、くるまに ぶつかって、おばけに なりました。「あたし、しんじゃったの? もう! しぬ ときまで おっちょこちょいなんだから!」”と、主人公のかんたろうのママがあっさり死んでしまうという、驚きの設定。読者はびっくりしつつも、おばけのママとまだ4歳のかんたろうとのほのぼのユーモラスなやり取りにたくさん笑い、最後にやっぱり泣かされ…本を読む、そのたった数分間に胸をぎゅっと掴まれるようなさまざまな感情を体験するのだ。

作者は「ぼく、仮面ライダーになる!」シリーズ(講談社)、「しんかんくん」シリーズ(あかね書房)など、これまで190冊以上の絵本を手がけた人気絵本作家ののぶみさん。「これは子どもが大キライな絵本。究極の設定だからこそシンプルに書いてみた」と過去のインタビューで語っているが、確かに考えたくもないことだからこそ、親と子それぞれの「かけがえのなさ」が反則なくらい心に響く。読み聞かせるママは「(おばけになっても)子どもを放っておけない!」という親心に大共感するし、読んでもらった子どもは健気にがんばるかんたろうに刺激されて「ママを大事にしなきゃ。わがままやめなきゃ」と気がつく…そんな幸せな循環がたぶん全国各地で起こっている。

advertisement

そして、この大人気シリーズに待望の新作『ぼく、ママとけっこんする!』が登場。鏡の中の自分にママの面影を感じ取り、ひとりでがんばっていこうとするかんたろうの姿が「自立」を感じさせた2冊目のラストに続くのは、ママがまだ生きていた3歳の頃のお話。パパがいなくなりママとおばあちゃんの3人暮らしが始まったとき、かんたろうが「ぼくが(パパのかわりに)ママとけっこんする」と言い出して、本当にウェディングドレスを着たママとけっこんしきをあげるのだ。ちょっとドレスがきつくなった(太った)ママを茶化しながらの式には思わず笑みがこぼれるが、この1年後にあっさりママはおばけになってしまう。

おばけのママとかんたろうのユーモラスなやり取りは前作のように続くが、このお話のポイントはなんといっても後半にある。詳しいことは絵本を読んでのお楽しみだが、すっかり大人になったかんたろうの「結婚式」に間違いなく世のママは号泣必至だろう。

正直なところ、後半には小さな子どもはイメージできないような場面や難しいところもあるかもしれない。案外、作者は、日々がんばっているママたちへのプレゼントにこの物語を書いたのかもしれない。他人の子(というか絵本の子)とはいえ、行く末を心配していた子の「本当の自立」を見ることができるのは、なんだか感慨無量。そして「ああ、子育てって、ほんとにすばらしい体験なんだなぁ」と、あらためて。きっと「今」を抱きしめたくなるに違いない。

文=荒井理恵