悪の秘密結社は意外と常識的? キミにもできる世界征服!!

ライフスタイル

2017/9/22

『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』(亜留間次郎、薬理凶室/三才ブックス)

 昔読んだSFギャグ漫画に、悪の天才科学者がマッドサイエンティスト養成のための通信講座を開講するというネタがあった。いかな天才科学者といえども得手不得手があるから、通信講座で受講生たちが提出する発明やアイデアを横取りし、ついでに同じ野望を持つライバルでもある彼らを亡き者にするという計画で、それを思いついた作者の才能にこそ感嘆したものだ。

 世界中から争い事を無くすためか、あるいは酒池肉林の贅沢三昧をしたいからか、その目的は人によって様々だろうが、世界征服をするとなれば組織と金と、敵対勢力を圧倒する武器が必要なはずである。そんな世界征服を目指す人の必携の書が、この『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』(亜留間次郎、薬理凶室/三才ブックス)である。

 そもそも、世界征服とは何か。本書ではそれを、「全人類共通の思想、価値観、基準を作り上げ、唯一のものにすること」と定義している。それならば世界平和などは達成が容易いようにも思えるが、自分の暮らしを良くしたいと願う個人的な欲は程度の差こそあれ誰もが抱いており、その差を共通化するのは難しそうだ。

「悪の組織の章」「悪のお金の章」「悪の科学力の章」の三つの章で構成されている本書では、まず組織運営に必要なものとして「イデオロギー」を挙げている。特に「個人崇拝と神格化は絶対に外せないポイント」としており、それには「組織のための精神医学」の解説が役に立つだろう。

 組織運営に必要なお金については、「武器商人になろう!」や「臓器売買の現実」などが稼ぎ方の参考になる一方で、著者は「帳簿をきちんと付けて、給料をきちんと支払うこと」と念を押している。例として挙げているアメリカのギャングであるアル・カポネが他のマフィアと一線を画していたのは、当時の構成員への報酬が「お小遣い制」だったのを「給料制」にしたことだそうだ。小遣いが足りなくなると構成員が勝手に犯罪行為に走るは、組織の金を使い込むはで組織の運営に支障が出るのを、マフィアになる前は帳簿の仕事をしていたアル・カポネが改革することで組織を拡大するのに成功したという。悪の組織といえども、残業代未払いなどといったブラック企業の手法を使っていては、組織の維持が危うくなってしまうという訳だ。

 組織の運営が上手くいけば、いよいよ世界征服のために最新の科学力でもって新兵器の開発に着手したいところ。しかし、「一家に一台 ご家庭原子炉計画」「粛清のための医学」などという代物に手を出さずとも、身体には安全かつ費用が安く済む方法もあるようだ。それは、情報戦である。ブルーベリーが目に良いとされサプリメントが販売されているが、本書によればこれは第二次世界大戦でイギリス軍が流した偽情報が元になっているという。当時のレーダーの性能を敵に知られないために、ブルーベリーに含まれるアントシアニンにより夜間視力が向上したとする「嘘論文を医学誌に載せた」というから手が込んでいる。元の嘘論文は1972年に取り下げられているにもかかわらず、21世紀にもなってまだ流布しているのだから、巧みな情報戦は長期的な世界征服にも有効そうだ。

 本書では、漫画家の新條まゆ先生の作品中で殺し屋がライフルの銃床を肩に担いで撃っていたシーンが、読者から「構え方がおかしい」とネタ扱いされていたことについて「実は正しかった」と指摘していた。俗称「バズーカシュート」と呼ばれるその構え方は、ゲリラ少年兵が小さな体格でライフルを使う時の射撃法だそうで、その殺し屋には「裏設定があるのかも」とのこと。漫画にあったネタが「アリエナイ」とは限らないとすると、世界征服のための通信講座も実際にあるかもしれない。ただし、受講すると命を狙われるかもしれないので御用心あれ。

文=清水銀嶺