『……なんでそんな、ばかなこと聞くの?』岐阜県郡上八幡が舞台! 記憶を失くした男子高校生は死んでいるけど、生きていて?

文芸・カルチャー

2017/9/25


『……なんでそんな、ばかなこと聞くの?』(鈴木大輔/KADOKAWA)

 『……なんでそんな、ばかなこと聞くの?』(鈴木大輔/KADOKAWA)……もうタイトルだけでキュンときちゃう本作は、恋愛小説の名手が「ひと夏の恋と奇跡」を描いたライト文芸だ。

 岐阜県郡上八幡の夏。400年の歴史を持つという「郡上おどり」は、観光客も大勢集まり、地元住人にとっても、そして「死者」にとっても特別な催しだ。

 その郡上八幡に住む藤沢大和(ふじさわ・やまと)は、ごく平凡な男子高校生だったが、目が覚めると彼は「死んでいた」。物語は、そんな不可思議な状態から始まる。なぜ死んだのか、記憶を失くしたまま、存在し続ける大和。生き返ったわけではない。だが、自分の身体は透けていないし、友人とも話せる。大和も読者も「?」のまま、物語は始まる。

 大和の「死」。そして死んだはずなのに目覚めた「理由」。大和が失っている死ぬ前後の「記憶」。それらの「謎」を全て知っているのは、幼馴染の少女・青山凜虎(あおやま・りんこ)。

「わたしがちゃんと生き返らせる。死なせないよ『今度』は」

 凛虎は大和に告げ、「分かる時がくるまで」「詮索はしない」ことを約束させる。

 凛虎の言うことを信じて、大和は彼女に従うが、時が経つにつれ、記憶が戻り始めるにつれ、徐々に違和感が生まれる。さらに、凛虎の双子の兄であり、大和の親友でもあった青山雪夜が、凛虎によって殺されたのではないかというウワサを思い出して……。

 大和の記憶が戻り、真実が明かされる時、終わったはずの凛虎と大和の、本当の物語が始まる。

……と、いうのが、本作のあらすじ。これだけ書くとシリアスなミステリー小説のように思われたかもしれないが、本作はこの「謎」が徐々に明らかになっていくのと同時に、大和と凛虎の胸がキュンとするような日常も描かれている。

「郡上おどり」が開催される夏を舞台に、そして郡上八幡城や、城山公園、吉田川など、実在の場所も登場するため、この土地の空気を色濃く感じながら、高校生の「男子」と「女子」の甘酸っぱいやり取りは、微笑ましく読むことができた。

 真面目過ぎて猪突猛進なところもある凛虎が、不器用だから言えなかったこと。そして、大和は「鈍い」ゆえに伝えきれなかったこと。真実が明らかになり、2人が素直になった時の、凛虎の「……なんでそんな、ばかなことを聞くの?」。破壊力抜群の可愛さでした。

 秋の夜長に、秘密がいっぱい胸もいっぱいになる恋愛小説はいかがだろうか?

文=雨野裾